ロマンスに、キス




お弁当のいちばん最後に残しておいた、たこさんウインナーを口に入れる。


ゴミは鞄の奥に押し込んで、誰にも見られていないことを確認してから、非常階段の扉を静かに開けた。



途中の階段で、紙がばさっと散らばる音がした。


プリントをばらまいた誰かが、固まったまま立ち尽くしている。
あたしと、その人しかいない。


……面倒くさい。



一瞬、見なかったことにしようかと思った。

このまま通り過ぎても、誰も責めないはずだし、関係ない。
でも、この空間でそれをやるのは、さすがに無理だった。


心の中で舌打ちをして、しゃがみこむ。

床に落ちたプリントを一枚ずつ拾い集める。



「どうぞ」



そう言って差し出すと、その人は顔を真っ赤にして、目を泳がせながら「ありがとう」と言った。
声が少し裏返っている。



ああ、これ。
こういうの。



優しくて、感じがよくて、ちゃんとしてる女の子。
人に親切にして、感謝される。これが、気持ちいいはずなんだ。



なのに。


胸の奥は、ぴくりとも動かない。満たされるどころか、何も残らない。
ありがとうって言われたのに。嫌な気持ちになる理由なんて、どこにもないのに。



どうして、何にも満たされないんだろう。