段ボールを抱え直しながら、ひと呼吸おいて冷たく言う。
「……見ない。帰って、ひとりで見れば?」
彼は「あ、そう」とだけ返して、私の顔から視線を外した。その瞬間、胸の奥で心拍が変に乱れる。
だめだ。こいつと話していると、リズムが狂う。
……関わらない方がいい。小さく息を吐いて、自分に言い聞かせる。学校では、誰にだって優しくて、穏やかで、完璧で。簡単に怒ったりしない。
彼から視線を切り、段ボールを抱え直して歩き出す。靴音だけが、静かな外廊下に落ちる。振り返らない。イライラする。でも、それを見せたくない。
「私はかわいい。かわいい」
口に出して、繰り返す。深呼吸して、いつもの表情に戻す。
――あんな男に、ペースを乱されてたまるか。


