ロマンスに、キス




「今、彼女いないんだよね……?」



女の子の声は、かすかに震えていた。


その音に、胸の奥でほんの少しだけ、同情が芽生える。



――かわいそうに。
あたしみたいに、かわいかったら、もう少し楽だったのにね。



そう思った、その瞬間だった。


足音。

コツ、コツ、と。
ゆっくりなのに、迷いのない歩幅。
こちらに向かってくる気配が、はっきりと伝わってくる。



まさか。


そう思ったときには、もう遅かった。
思わず息を呑む。



段ボールの隙間から、ほんのわずかに視界を動かす。

そこに映ったのは――


黒い、ヘッドフォン。



先日の。あの男。


一瞬、呼吸の仕方を忘れた。
肺が動くのを止めたみたいに、息が詰まる。


なんで、ここに。
どうして、このタイミングで。



「こいつ、俺の彼女」



段ボール越しに落ちてきた声は、感情を削ぎ落としたみたいに平坦で、意味だけがやけに鋭く突き刺さった。

理解が、追いつかない。



「え?」



気づいたら、声が漏れていた。
反射的に。


でも彼は、やっぱりあたしを見ない。
視線は最初から最後まで、女の子に向けられたまま。


事務的で、冷たくて、まるで説明書でも読むみたいに、刺すように言い放っただけ。