詩音と海と温かいもの

 中学校が春休みになって、詩音ちゃんは俺、川瀬匠海の部屋に来ていた。

 春休みは二週間くらいしかないし、俺もバイトと課題があるから帰省はしないことにした。

 三月の終わり、俺はパソコンでシラバスを見ながら二年前期の時間割を作り、詩音ちゃんは進路希望票を睨んでいた。


「ねえ、匠海さんはいつ進路決めた?」

「中学二年の終わりくらいかな」

「……今の私と同じ時期だ」

「内部進学にするんじゃねえの?」

「そうなんだけどお」


 そう言ってシャーペンを回す詩音ちゃんの指先には、さっき俺が塗ったマニキュアのラメがキラキラしている。


「詩音、何になりたいとか、どんなことをしたいとか、全然思いつかないよ」

「あー、進学して、その先ってこと?」

「うん……」

「職業っていろいろあるしなあ。あ、あとで図書館行こうか。なんだっけな、子供向けの職業図鑑とかあるんじゃねえかな」


 そう言うと、詩音ちゃんはムスッとしたまま頷いた。

 俺はパソコンを閉じて腕を広げる。

 いつもなら一も二もなく飛び込んでくる詩音ちゃんが、困った顔になった。


「どした?」

「えっと……我慢、させてない?」

「何が? あ、さてはまた、わけわかんない遠慮してんな?」

「そ、そういうわけじゃ」


 詩音ちゃんの視線が泳いだ。

 笑っちゃうくらいわかりやすい。


「詩音ちゃん、寒くない?」

「そんなに」

「俺は寒いから、温めてよ」

「……うん」


 詩音ちゃんはおずおずと俺の腕の中に収まった。

 相変わらず温かくて柔らかくて、いい匂いがする。我慢していないわけじゃないけど、そんなことは詩音ちゃんに気にさせるようなことじゃなかった。


「匠海さん、詩音のこと、好き?」

「好きだよ」

「……詩音も匠海さんのこと大好き」

「何かあった?」

「……進路に困ってる」


 絞り出すような声に、思わず笑った。

 ぎゅっと抱きしめてから、手を離す。


「図書館に行こう。んで、詩音ちゃんが興味持てることを探そう。帰りに晩飯の材料買って帰ってこよう」

「手えつないでいい?」

「もちろん」


 立ち上がって、詩音ちゃんの手を引いた。