詩音と海と温かいもの

 日曜日の午後。私、矢崎詩音は匠海さんに送ってもらって、寮まで戻ってきた。


「ただいまー」

「おかえり、詩音」


 寧々子はベッドで雑誌を読んでいた。


「聞いて聞いて、ホワイトデーのお返しもらった」

「よかったじゃん。何もらったの?」

「あのねえ、マニキュアとリップグロスと腕時計とお揃いのストラップ」

「……多いね?」


 苦笑する寧々子にリムーバーを借りて、私はマニキュアを落とした。

 床に座って足の爪に塗り直しながら、土日の話をした。


「これがお揃いのストラップ。うふふ、嬉しいなあ」

「それ、匠海さんの方には「S」と「K」が着いてるんだよね」

「うん」

「プロポーズじゃん」

「えっ、そ、そうかな……?」


 それは私も、ちょっと思った。

 今の名字が嫌なら、俺の名字をあげるって、そういうことかなって思った。

 匠海さんはそれを言ったときに照れてたし、「何でもねえ」って、なかったことにしようとした。


「……もしかして、匠海さんは私のこと好きなのかな?」

「それ、今気づいたの!?」


 寧々子が飛び起きた。

 ベッドから降りて、私と一緒に床に座った。


「や、そもそも考えないようにしてたんだよね。なんかドツボにはまりそうで」

「あのね、匠海さんが可哀想だと思うよ。私は一度しかお会いしてないけど、っていうか文化祭の時にちらっと見かけただけだけど、ちゃんとしてそうだったじゃん。ちょっと筋肉過ぎて私の好みじゃないけど、いい人そうだったじゃん!」

「え、うん? いい人だよ」


 ちょっと寧々子が何を言いたいのかわからなくて、私は曖昧に頷いた。

 いい人なのは間違いないと思う。

 私は匠海さんのガッチリしたところも、すごく好きだけどね。

 でも寧々子は、「そうじゃない!」と言った。


「いい人かもだけどさ? 誰にでも『いい人』じゃなさそうじゃない? あと、ちゃんとしてそう」

「誰にでも……? んー、私以外といるところをあまり見ないからなー。ちゃんと……?」


 「ちゃんと」って、どういうこと?

 学校やバイトにサボらず通ってるとか?

 自炊してるとか?


「詩音に対してちゃんとしてるってこと! 冬休み、わざわざ詩音パパを説得して連れ出してくれたんでしょ?」

「うん。出て行くって言ったのは私だけど、長期休みのときに川瀬さんの家に行くっていうのは言ってくれたみたい」


 あのとき匠海さんが父と何を話したのか、私はよく知らない。

 聞いたけど、「秘密」と言って教えてくれなかった。


「よっぽど大事じゃないと、相手の親と話さないと思うけど」

「父がたまたま出てきただけだからなあ」

「そうかもだけどさ。でも、そもそも実家まで詩音に会いにきてくれたんでしょ?」

「うん……」

「それで、苗字くれたんでしょ?」

「べ、別にもらったわけじゃ……!」

「もらったようなもんだと思うけどお」


 寧々子はニヤッと笑って、手元の雑誌をめくった。