詩音と海と温かいもの

 あるもので昼を済ませて、部屋を出た。

 詩音ちゃんは、クリスマスに俺があげたストールをぐるぐると巻いていた。

 上から見ると唇がツヤツヤで、やっぱりキスしたくて仕方なかった。


「匠海さん?」

「ん?」

「見過ぎ」

「かわいかったから」

「もー」

「本当にそう思ってるからな?」

「わ、わかってるよ」


 詩音ちゃんは恥ずかしそうな顔で、俺の腕にもたれかかった。



 公園に着くと、フリーマーケットをやっていた。

 詩音ちゃんがアクセサリーの店の前で立ち止まった。


「何かほしいのある? ホワイトデーだし、贈るよ」

「え、でも」

「元からアクセサリーも考えてたし。俺が贈ったらキモいかと思って、やめたけど」

「キモくないよ!」


 詩音ちゃんが目を丸くした。


「じゃあ、何かお願いしよっかな。……でも、アクセサリーは学校につけていけないしなあ」

「よろしければ腕時計や、ストラップもございますのでご覧ください」


 売り子さんが言って、詩音ちゃんが目を輝かせた。


「へー、おしゃれだなあ」

「どれが詩音に似合うと思う?」

「どれもいいと思うけど……」


 華奢なブレスレットみたいな腕時計を、詩音ちゃんの細い手首に当てた。


「これかな」

「じゃあこれがいい」

「俺が選んだやつでいいの?」

「匠海さんが選んでくれたのがいいの。ねえ、ストラップも見ていい?」

「もちろん」


 詩音ちゃんが手にしたのは革のストラップだった。

 思ったよりも渋いデザインだ。


「それがほしいの?」

「あのねえ、匠海さんとお揃いがほしいの」

「こちらのお品は革のベルトにリングを通せますし、アルファベットの刻印されたビーズを通してオリジナルのストラップにすることもできます」


 見せてくれたリングはいろいろあって、そのままつけられそうな指輪もたくさんあった。


「匠海さん、詩音のストラップ作って」

「じゃあ、詩音ちゃんが俺に作ってくれ」

「うん!」


 詩音ちゃんはすぐにリングとビーズを選んだ。早いな……。

 俺は全然選べない。

 そりゃ、俺のイニシャルとか選びたいけど、さすがにキモくないか……彼氏でもないのに。


「詩音ちゃんは何にしたの?」

「あのねえ、紫の石がついたリングと、「S」のビーズにした」

「……そっかあ」


 それ、俺にくれるんだ。

 じゃあ俺も好きにしちゃおうかな。

 リングは海っぽい濃い青でビーズは……。

 そこでふと、ビーズは二つで百円と書いてあるのに気がついた。

 じゃあ「T」と「K」かな。


「詩音ちゃん、ビーズは二つで百円だってさ」

「へー……もう一個どうしよう」


 詩音ちゃんはなぜか悩み始めた。

 てっきり、すぐに「Y」を選ぶかと思ったけど……ああ、あまり矢崎を名乗りたくないのか。


「詩音ちゃん、『Y』を使いたくないなら、『K』でも……ごめん、何でもねえ」


 死ぬほどキモいことを言ってしまった。

 何だよそれ……プロポーズじゃん。

 詩音ちゃんは引いてないだろうか。


「いいの?」

「えっ……う、うん。詩音ちゃんが嫌じゃなければ……」

「やった、じゃあそうする」


 俺が手に取りかけた「K」のビーズを、詩音ちゃんはあっさり手にしてストラップに通した。


「これでお願いします」

「あ、これも」

「かしこまりました」


 腕時計とストラップ二つの会計を済ませた。

 詩音ちゃんの腕に時計をつけると、嬉しそうにそれを撫でていた。


「ありがとう、匠海さん」

「いいよ……これも」


 ストラップを渡した。灰色の革のベルトに「T」と「K」のビーズと、濃い青の石のついた指輪が通してある。

 俺の手元のストラップには「S」と「K」のビーズと、淡い紫の石のついた指輪が通されている。

 ヤバい。ニヤけそう。

 口元を押さえたら、詩音ちゃんはゆるみきった顔でストラップと腕時計を見ていた。


「えへ……嬉しいな……」

「俺も嬉しい。ホワイトデーなのにもらっちゃった」

「スマホにつけておくね」

「俺も」


 それしか言えないくらい嬉しかった。

 やってることは、本当にキモくて、独占欲にすぎないんだけど、それを詩音ちゃんが受け入れてくれたのが嬉しかった。


 まあ、気づいてないんだと思うけど。

 スマホにストラップをつけてから、また手をつないで歩き出した。

 ぶら下がっている指輪を、いつか詩音ちゃんの指に通したい。

 いつか、詩音ちゃんが高校を卒業して、それでも俺の隣にいてくれるなら。