三月後半、俺、川瀬匠海はバスに乗って詩音ちゃんを迎えに行った。
昼前に寮の近くのバス停で降りると、向かい側で詩音ちゃんが笑顔で手を振っていた。
「お待たせ」
「ううん、詩音も今来たところ」
詩音ちゃんのところまで行くと、嬉しそうに抱きついてきた。
彼女の顔にかかった髪を払ったら、目の下にクマができていた。
「期末試験、どうだった?」
「たぶん大丈夫。平均点は超えたと思う。たぶん」
「おつかれさま」
ぎゅっと抱き返して、バスが来るのを待つ。
途中で昼飯を食べてから俺の部屋に向かった。
詩音ちゃんは部屋に入るなり、
「疲れたよー、匠海さん充電させて……」
と、また飛びついてきた。
そうしたいのは山々だけど、今日は先にしたいことがあった。
「ちょっと待って。これ、どうぞ」
机に置いてあった紙袋を詩音ちゃんに渡す。
「なあに?」
「ホワイトデー。何がいいか全然わかんねえから、ちゃんと好みに合ってるといいんだけど」
「詩音は匠海さんが一緒にいてくれれば、それでいいもん。開けていい?」
「どうぞ」
詩音ちゃんは笑顔で紙袋を開けた。
中身は中学生に流行っているらしい、リップグロスとマニキュア。
詩音ちゃんは目を丸くして取り出した。
「わ、かわいい……! これ、寧々子が持ってた!」
「今つけていい?」
そう聞くと、詩音ちゃんが首を傾げた。
「どういうこと? 匠海さんがつけるの?」
「違え。俺が詩音ちゃんにつけたいなってこと」
「えっと、お願いします」
少し照れたように笑いながら、詩音ちゃんは頷いた。
詩音ちゃんを脚の間に座らせ、指先にマニキュアを塗っていく。
はみ出さないようにするのが難しい。
手だと日曜日の夜には落とさないといけないから、足の爪先にも塗った。
「キラキラ~かわいい~」
そう言ってはしゃぐ姿がかわいいと思う。
「これも塗っていい?」
リップグロスを見せると、詩音ちゃんは顔を上げた。
「いいよー」
「失礼します」
小さな唇に、とろりと色を乗せていく。
喉が鳴りそうになるのを必死に堪えた。
「似合う?」
「うん、かわいい」
「嬉しいなあ。ありがとう」
詩音ちゃんは嬉しそうに、小瓶を手のひらに乗せて眺めた。
……リップグロスにしたのは一応理由がある。
そうやってきれいにしていたら、取れないように、キスしない理由にできるんじゃないかと思ったんだ。ちなみに口紅を贈るのは「あなたとキスがしたい」という意味があるらしい。
だから、「キスがしたい。でもしたら取れちゃうから、しない」そういうつもりで贈ったけど、気持ち悪いから気づかないでもらっていい。
我ながら重いしキモいし、どうかしてる。
「匠海さん、充電させて」
「はいはい」
腕を広げると、詩音ちゃんは小瓶を机に並べて、抱きついてきた。
彼女は膝を立てて、俺の頭を抱えている。
詩音ちゃんがあんまりもちもちしてなくて、本当に良かった。
こう言っちゃあなんだけど、詩音ちゃんはすらっとして、薄い体型をしているから、胸を顔に押しつけられても、俺の理性はぎりぎりで保っていられた。
もちもちだったら、たぶんいろいろと決壊していたと思う。
「詩音ちゃん、行きたいところとかある? 試験終わったし、ホワイトデーだし」
「じゃあ、ゴールデンウィークに行った大きい公園に行きたいな。散歩するだけだけど」
「いいよ。充電が終わったら昼飯食って行こう」
薄い背中を抱き寄せた。
一年近く伸ばした髪は肩の下くらいまであって、ホワイトデーは髪飾りでもよかったかもしれない。
しばらく身を寄せ合いながら、ぼそぼそと近況報告をした。
話すことがなくなったら、詩音ちゃんが俺の髪に顔を埋めている。……髪にグロスがついているのでは?
「詩音ちゃん?」
「んー」
やたらと眠そうな声が返ってきた。
「俺の髪にグロスついてない?」
「……あ、ごめん」
詩音ちゃんが腕を解いて、机の上のティッシュを取った。
髪がちょっと引っ張られる。
「取れた……と思う」
「塗り直すよ」
並べてあったグロスを取って蓋を開ける。
詩音ちゃんの頬に手を添えて、半開きの唇に塗り直した。
「できた。……そろそろ昼にしようか」
吸い寄せられそうになるのを堪えて手を離した。
昼前に寮の近くのバス停で降りると、向かい側で詩音ちゃんが笑顔で手を振っていた。
「お待たせ」
「ううん、詩音も今来たところ」
詩音ちゃんのところまで行くと、嬉しそうに抱きついてきた。
彼女の顔にかかった髪を払ったら、目の下にクマができていた。
「期末試験、どうだった?」
「たぶん大丈夫。平均点は超えたと思う。たぶん」
「おつかれさま」
ぎゅっと抱き返して、バスが来るのを待つ。
途中で昼飯を食べてから俺の部屋に向かった。
詩音ちゃんは部屋に入るなり、
「疲れたよー、匠海さん充電させて……」
と、また飛びついてきた。
そうしたいのは山々だけど、今日は先にしたいことがあった。
「ちょっと待って。これ、どうぞ」
机に置いてあった紙袋を詩音ちゃんに渡す。
「なあに?」
「ホワイトデー。何がいいか全然わかんねえから、ちゃんと好みに合ってるといいんだけど」
「詩音は匠海さんが一緒にいてくれれば、それでいいもん。開けていい?」
「どうぞ」
詩音ちゃんは笑顔で紙袋を開けた。
中身は中学生に流行っているらしい、リップグロスとマニキュア。
詩音ちゃんは目を丸くして取り出した。
「わ、かわいい……! これ、寧々子が持ってた!」
「今つけていい?」
そう聞くと、詩音ちゃんが首を傾げた。
「どういうこと? 匠海さんがつけるの?」
「違え。俺が詩音ちゃんにつけたいなってこと」
「えっと、お願いします」
少し照れたように笑いながら、詩音ちゃんは頷いた。
詩音ちゃんを脚の間に座らせ、指先にマニキュアを塗っていく。
はみ出さないようにするのが難しい。
手だと日曜日の夜には落とさないといけないから、足の爪先にも塗った。
「キラキラ~かわいい~」
そう言ってはしゃぐ姿がかわいいと思う。
「これも塗っていい?」
リップグロスを見せると、詩音ちゃんは顔を上げた。
「いいよー」
「失礼します」
小さな唇に、とろりと色を乗せていく。
喉が鳴りそうになるのを必死に堪えた。
「似合う?」
「うん、かわいい」
「嬉しいなあ。ありがとう」
詩音ちゃんは嬉しそうに、小瓶を手のひらに乗せて眺めた。
……リップグロスにしたのは一応理由がある。
そうやってきれいにしていたら、取れないように、キスしない理由にできるんじゃないかと思ったんだ。ちなみに口紅を贈るのは「あなたとキスがしたい」という意味があるらしい。
だから、「キスがしたい。でもしたら取れちゃうから、しない」そういうつもりで贈ったけど、気持ち悪いから気づかないでもらっていい。
我ながら重いしキモいし、どうかしてる。
「匠海さん、充電させて」
「はいはい」
腕を広げると、詩音ちゃんは小瓶を机に並べて、抱きついてきた。
彼女は膝を立てて、俺の頭を抱えている。
詩音ちゃんがあんまりもちもちしてなくて、本当に良かった。
こう言っちゃあなんだけど、詩音ちゃんはすらっとして、薄い体型をしているから、胸を顔に押しつけられても、俺の理性はぎりぎりで保っていられた。
もちもちだったら、たぶんいろいろと決壊していたと思う。
「詩音ちゃん、行きたいところとかある? 試験終わったし、ホワイトデーだし」
「じゃあ、ゴールデンウィークに行った大きい公園に行きたいな。散歩するだけだけど」
「いいよ。充電が終わったら昼飯食って行こう」
薄い背中を抱き寄せた。
一年近く伸ばした髪は肩の下くらいまであって、ホワイトデーは髪飾りでもよかったかもしれない。
しばらく身を寄せ合いながら、ぼそぼそと近況報告をした。
話すことがなくなったら、詩音ちゃんが俺の髪に顔を埋めている。……髪にグロスがついているのでは?
「詩音ちゃん?」
「んー」
やたらと眠そうな声が返ってきた。
「俺の髪にグロスついてない?」
「……あ、ごめん」
詩音ちゃんが腕を解いて、机の上のティッシュを取った。
髪がちょっと引っ張られる。
「取れた……と思う」
「塗り直すよ」
並べてあったグロスを取って蓋を開ける。
詩音ちゃんの頬に手を添えて、半開きの唇に塗り直した。
「できた。……そろそろ昼にしようか」
吸い寄せられそうになるのを堪えて手を離した。



