詩音と海と温かいもの

 お昼は二人でお好み焼きを作って食べて、午後は近くの公園を散歩した。


「あのさ、詩音ちゃん」

「なあに」


 手をつないで、ぶらぶら歩いていたら、匠海さんが立ち止まった。


「……誰かに、チョコあげた? その、俺以外に」


 見上げたら、匠海さんが難しい顔をしていた。


「寧々子にあげた」

「誰?」

「寮の同室の子」


 前に寧々子とスマホで撮った写真を見せた。

 匠海さんは、一瞬ぽかんとしてから苦笑した。


「そっか」

「ちなみに去年は寧々子と交換しただけ」

「そうなんだ?」

「うん。あと美海から、夜はどんなチョコを喜ぶかっていう相談の手紙が来た」

「あいつは美海からだったら、何でもいいだろ……」


 また手を繋ぎ直して歩き出した。

 ふと思いついて、私は手を引っ張った。


「あのね、男の子にあげたのは匠海さんが初めてだよ」

「マジで?」

「マジで。二月に夜に会うことってないし、女子校だし」

「……なんで、俺にくれたの?」


 別に大した理由はない。

 ないけど、あなたに贈りたかった。


「学校で家庭科部のバレンタインイベントのチラシを見て、匠海さんのことが思い浮かんだんだ。それで、あ、匠海さんにあげたいなって思ったの」

「そっか。ありがとう。すげー嬉しい」

「詩音も、受け取ってくれて嬉しい」


 そのまま、公園を出てスーパーに向かった。

 食材を買って帰って、二人で晩ごはんを作って食べた。



 お風呂も済ませて、ベッドで横になった。

 匠海さんの腕に収まってウトウトしていたら、ギュッと抱きしめられた。


「バレンタイン、ありがと」

「うん。残りもちゃんと食べてね」

「食べるから、来年もちょうだい」

「わかった。来年は進学があるから作れるか分かんないけど。内部進学が決まれば作れると思う」

「どっちでもいいよ、詩音ちゃんがくれるなら。あ、あとホワイトデーは何がいい?」


 顔を上げたら、匠海さんが眠そうな顔で私を見ていた。

 匠海さんの顎に顔を寄せた。

 硬くて、ジョリジョリしてて、痛いなあって思うけど、ついいつもやっちゃうんだ。


「思いつかないな。匠海さんにしてほしいことは、もう全部してもらってるから」

「そっかあ」


 低い声が耳元にかかった。


「……ねえ匠海さん。名前、呼んで」

「詩音ちゃん?」

「ふふ、嬉しい。おやすみなさい、匠海さん」

「うん、おやすみ、詩音ちゃん……」


 頭の上からふわっとあくびが聞こえて、少ししたら寝息に変わった。

 それを一番近くで聞かせてもらえるだけで、私には十分だった。