詩音と海と温かいもの

 一瞬、俺の脳が理解を拒絶した。

 なんて?

 下半身がすごい勢いで萎えた。


「詩音ちゃん、降りて」

「え、うん」


 ポカンとした顔で隣に座った詩音ちゃんを、俺は睨んだ。


「そこに正座」

「ちょ、待って待って! 詩音がしたいわけじゃないから!」

「じゃ、じゃあ、どういうつもりでそんなこと言うんだよ! ふざけんな、俺のことなんだと……!」

「言われたんだよう」


 詩音ちゃんはまた涙目で俺を見た。


 マジかよ。誰にだよ。全方位にセクハラじゃねえか……。


「えっと……誰に?」

「抱っこ」


 詩音ちゃんは涙目のまま、口をへの字にして手を伸ばした。

 でも、もうさっきの体勢は辛い。


「……横になっていい?」

「うん。匠海さんが抱っこしてくれるなら、何でもいい」


 我慢大会延長戦である。

 よたよたと立ち上がってベッドに倒れ込むと、詩音ちゃんが上に乗っかってきた。

 下半身に乗ってないから、まあ、なんとか……。

 詩音ちゃんの長くなった髪を梳いて背中を撫でていたら、彼女は俺の胸に顔を埋めて、ぼそぼそと話し始めた。

 ――要するに、冬休みの終わりに俺といるところを見られて、八つ当たりされたらしい。


「……その子が、冬休み中に年上の幼馴染みにフラれたから、詩音が匠海さんと仲よさげにしてるのを見て、イラついたって言ってた」

「そっか……」

「ムカつくよう。腹が立つよう。業腹! 遺憾! そんなことで私の匠海さんに、なんでそんなひどいこと言われなきゃいけないの!」


 詩音ちゃんは俺の上でジタバタしながら怒っていた。

 珍しいしかわいいし、語彙がめちゃくちゃでちょっと笑いそうだけど、本人は俺のために怒ってるから、堪えた。


「ありがと、詩音ちゃん」

「なにが?」


 詩音ちゃんはむくれた顔で俺を見た。


「俺のために、そんなに怒ってくれて」

「怒るよ! だって匠海さんは詩音の恩人だし、大好きな人だもん。失礼なことを言われたら、嫌だよ」

「そっか」

「それにさ」


 ムスッとしたまま、詩音ちゃんは俺の胸元に頬ずりした。


「匠海さんは大人だから、詩音みたいな子供、相手にしないよ」

「……そんなことは、ねえけどさ」


 さっきから諸々我慢してたせいで、余計なことを言ってしまった。


「え……?」


 詩音ちゃんが不思議そうな顔で俺を見た。


「あー……、えっとさ」

 まあ、いい機会だから言っておこう。