詩音と海と温かいもの

 翌日、朝ごはんの後に実家を出た。


「詩音ちゃん、また春休みにおいで」

「待ってるからね!」

「……うん。ありがとう!」


 母さんと美海に見送られて、俺と詩音ちゃんは車に乗った。

 親父に駅まで送ってもらって、電車に乗る。

 ボックス席に座ると、詩音ちゃんは俺の隣に座った。


「冬休み、終わっちゃったねえ」

「あっという間だったなあ」

「匠海さん、試験っていつから?」

「来週」

「なのにバイトも入れてるんだね」

「平日の昼だけね。土日は勉強するよ」


 詩音ちゃんは「ふうん」と頷いて俺にもたれかかった。


「じゃあ、しばらく匠海さんの部屋には行かないほうがいいかな。試験はいつまで?」

「四週目の金曜日の朝」

「……その日の夜に、匠海さんの部屋に行ってもいい?」

「もちろん。今日はどうする? すぐ寮に行く?」


 そう聞きながら、俺は詩音ちゃんの手を握った。

 ゆっくり彼女の指を解いて、俺の指を絡める。

 詩音ちゃんは呆れたような顔で俺を見上げた。


「匠海さん、そんなに甘えん坊だったっけ」

「そうだよ。知らなかった?」

「ね、今日は匠海さんの部屋に泊まらせてもらっていい?」

「もちろん」


 絡めた指が握り返された。

 その後は何も言わず、互いにもたれかかって手をつないだまま、俺は試験勉強をして、詩音ちゃんはスマホで小説を読んでいた。



 俺の部屋に着いたら、荷物を片付ける。

 昼飯は途中で食べてきたから、荷ほどきが終わったら、また俺は試験勉強をする。

 詩音ちゃんも宿題の見直しや、教科書をめくって内容を思い出したりして午後を過ごした。

 晩飯は買いだしついでにラーメンを買ってきて一緒に作って食べた。

 交代で風呂を済ませて、さっさと部屋の明かりを消した。

 詩音ちゃんは俺の腕に収まると、ぎゅっとしがみついた。


「匠海さんと寝るの、久しぶりだ」

「そうだな。クリスマス以来だから、二……三週間ぶりかな」

「またしばらく来られないの寂しいな」

「来てもいいよ」

「ダメだよ。勉強の邪魔はしたくないから。その分、今夜充電させて」


 細い腕が俺の背中を抱き寄せた。

 詩音ちゃんの吐息が俺の喉に当たって、ソワソワした。


「詩音ちゃん」

「んー」


 眠そうな声が返ってきた。


「……おやすみ」

「うん、おやすみなさい、匠海さん」


 抱き寄せると、うなり声がした。

 痛かったかと力を緩めたら、詩音ちゃんが強く抱きついてくる。

 髪を梳いて、背中を撫でた。

 それ以上触れないように、細い身体を強く抱きしめて、俺は目を閉じた。