詩音と海と温かいもの

 近所の神社は混んでいた。

 といっても、いつもより少し混んでるかな、くらいだけど。

 四人で手を合わせてお参りしてから、社務所でおみくじを引いた。


「お、吉だ。悪いことがあっても、努力と心持ちでどうとでもできるってさ」

「詩音は大吉! でも書いてあることは匠海さんと変わんないな。嫌な事があっても、救いの手が差し伸べられるってさ」

「ふうん。じゃあ、ずっと詩音ちゃんの隣にいるよ」


 そう言ったら、詩音ちゃんは照れたような顔で笑った。

 美海と夜もおみくじを引いて、盛り上がっている。

 二人は学校の友達と合流して、屋台の方へ向かっていった。


「俺らも軽く食おうぜ」

「うん! 何がいいかな」

「焼きそばあるよ」

「焼きそばは匠海さんが作ってくれる方が美味しいからなー」

「じゃあ、俺が作れないものにしよう。たこ焼きとか」


 二人でたこ焼きの屋台に向かった。

 でもたこ焼き器があれば作れるんだよな。

 ホットプレートとセットになってるタイプなら、あってもいいかも。

 詩音ちゃんと使えるし。

 なんつーか俺は、詩音ちゃんが自分の部屋に来ることを、当たり前だと思いすぎている気がする。


「詩音ちゃん」

「なあに?」


 彼女の手を取った。


「たこ焼き器買って、一緒に作ろうよ、たこ焼き」

「たこ焼きって自分で作れるの!?」

「たこ焼き器があればできる。ベビーカステラとかもできるんじゃねえかな」

「やりたい!」


 掴んだ手が、きゅっと握り返された。

 昨日、電車の中でつい指を絡めてしまったわけだけど、また同じことをしてもいいだろうか。

 嫌な顔をされたり、困ったりしないだろうか。

 でも迷っているうちに順番が来て、タイミングを逃した。

 二人で近くのベンチに座って、たこ焼きを食べた。

 スマホを出して、通販サイトでホットプレートとセットになっているたこ焼き器を探した。


「へー、焼き肉とかもできるんだ。あ、パンケーキも焼けるんだね」

「あ、鍋つきのもある。これいいなあ」

「匠海さんの部屋で鍋パができるの? いいねえ。じゃあこれにしようよ。詩音、半分出すよ」


 相変わらず詩音ちゃんはお金の話になるとしっかりしている。

 お金持ちのお嬢様って感じはしないな。

 でも、そうやってしっかりしてるから、詩音ちゃんの家はお金持ちなのかもしれない。


「これくらい買うって」

「だめ、出す。一緒に使おうよ」

「……なんつーか、詩音ちゃんは甘えるの上手になったね」

「そ、そうかな。ごめん、図々しいね」

「まさか。もっとたくさん甘えてくれていいよ」


 詩音ちゃんが欲しがったホットプレートを、欲しいものリストに入れておいた。実家から部屋に戻るときに注文しておこう。

 食べ終えたたこ焼きの皿を捨てて、詩音ちゃんの方に手を伸ばした。


 詩音ちゃんが俺の手に触れる直前、怒鳴り声が俺と彼女の間に割って入ってきた。