詩音と海と温かいもの

「俺、グリーン車とか初めてだわ」

「そう? 楽だよ」

「詩音ちゃんってそういうとこお嬢様だよな……。や、貶してるわけではなく」


 匠海さんは、座席にぐにゃっともたれかかって言った。


「乗り換えまで二時間かかんないくらいだな。詩音ちゃん、宿題終わった?」

「うん、だいたい」

「俺、試験勉強してていい?」

「もちろん。静かにしてるね」


 私がスマホで小説を読み出したら、匠海さんもカバンから教科書を出してきた。

 パラパラめくりながら、私にもたれかかってくる。


「匠海さん、重いよ」

「手えつないでて」

「いいけど、教科書めくりづらくない?」

「大丈夫」


 匠海さんは私の手を握って、反対の手で教科書をめくった。

 相変わらず私にもたれかかっていて重たいけど、嫌じゃないから、私も匠海さんの方に体重をかけた。

 手を握り返したら、太い指で手のひらを押された。

 互いの手を、にぎにぎとつかみ合う。

 いつの間にか指が絡んでいて、全然小説に集中できない。


「匠海さん勉強してる?」

「してない」

「ダメじゃん」

「詩音ちゃんをうちに連れて帰れるのが嬉しいから」

「もー」


 体を起こして匠海さんを見上げた。

 甘ったるくて優しい顔で私を見ている。


「そんな顔したってダメだよ。匠海さん、休み明けには試験なんでしょ?」

「俺、どんな顔してる?」

「んー、ペロペロキャンディみたいな顔してるよ」

「なにそれ」

「秘密」


 もう一度、座席にもたれかかった。

 絡んだままの指を、そっと握り直して、匠海さんの腕にくっつく。

 小説は諦めて、スマホをポケットに戻した。

 さっき買ったココアを飲みながら、流れる景色を見る振りをして、窓に映った匠海さんを眺めていた。