詩音と海と温かいもの

 今は二人でベッドにもたれかかりながら、サブスクで映画を見ていた。

 夕方まで時間を潰すためだったけど、詩音ちゃんは俺にもたれかかって半分寝ている。


「詩音ちゃん、寝る?」

「んー、観る」

「目え開いてないよ」

「そんなこと、ないもん」


 そう言いながら、詩音ちゃんの体はずるっと傾いて、あぐらをかいていた俺の膝に倒れ込んだ。


「めっちゃ寝てるじゃん」


 リモコンに手を伸ばしてテレビを消した。

 詩音ちゃんを起こさないように抱きかかえて、そっとベッドに下ろす。


「匠海さん……」

「起こしちゃった?」


 でも目は開いてなくて、ただの寝言だったらしい。

 詩音ちゃんの体から手を離そうとしたら、服を掴まれていて抜けなかった。


「……ま、いっか」


 別にやることがあるわけじゃない。――嘘だ。ほんとは試験勉強しないといけない。

 大学の学年末試験が年明けにあるから、今の時期はそろそろ勉強し始めたほうがいい。


「詩音ちゃん」


 屈んで詩音ちゃんの耳元に顔を寄せた。


「ちょっとだけ、勉強してくる。おやすみ。俺以外に、そんな寝顔見せないでくれよ。心配になるから。ってキモいな。何言ってんだ、俺は」


 手を伸ばしかけて、すぐに引っ込めた。

 ベッドから降りて、教科書とノートを取りに行く。

 ベッドの横に机を移動して、詩音ちゃんの寝息を聞きながら教科書をめくった。



 一時間後、詩音ちゃんはむにゃむにゃ言いながら起きてきた。


「あれ……喧嘩してた犬、仲良くなった?」

「それ、めっちゃ序盤だし。おはよ」

「わ、寝てた。匠海さんが寝かせてくれたの? ごめんなさい」

「いいよ、俺も試験勉強してたし。そろそろ晩飯作ろうか」

「うん!」


 起きてきた詩音ちゃんの髪が、一カ所思いきり跳ねていた。

 手を伸ばして梳くと、すぐに直った。


「寝癖あった」

「直った?」

「うん、大丈夫」

「ありがと」


 別に大したやり取りじゃないんだけど、それでもお腹の奥がそわそわして、無性に温かくて、なんだかなあと思う。

 まあでも、俺が年上で大人だから、ちゃんと隠しておこう。