詩音と海と温かいもの

 観覧車から見た景色は、徐々に日が沈んで、かわりにイルミネーションが輝いていた。


「綺麗だなあ」

「君の方が綺麗って、言ったほうがいい?」

「言わなくていいよ。そういうのは、いつか匠海さんに彼女ができたら言ってあげて」


 そう言うと、匠海さんはなぜだか切なそうな顔をした。


「匠海さん?」

「んー、なんでもない」

「……ね、隣座っていい?」

「いいよ」


 立ち上がって、匠海さんの隣に座った。ゴンドラがゆらゆら揺れる。

 匠海さんにもたれかかって、外を見ていた。


「匠海さん、手をつないでもいい?」


 返事はなかったけど、私の手に匠海さんの手が重なる。手をひっくり返して、手のひら同士を合わせた。


「匠海さんの手、温かくて好きだな」


 ゆっくりと指が絡んだ。

 互いに言葉もなく、指を絡めて外を見ていた。


「……さっきはあんなこと言ったけど、ほんとは彼女なんて作ってほしくないよ。そしたら詩音、また一人になっちゃう」


 匠海さんの顔が見られなかった。

 手がぎゅっと握られた。


「しないよ、一人になんて」

「……ごめんね、わがまま言って」

「わがままじゃない。俺が、詩音ちゃんを一人にしたくないんだ」

「ありがとう、匠海さん」

「あのな、俺が優しいからとか、妹の友達だからとかじゃねえから」

「……そなの」

「そうなの。あ、そろそろ終わりだ」


 ゴンドラがゆっくり地上に近づいて、もうすぐ終わるというアナウンスが流れた。

 私は匠海さんにもたれかかったまま、ぼんやりそれを聞いていた。


「行こう、詩音ちゃん。飯食って帰ろう」


 ゴンドラの扉が開いて、匠海さんに手を引かれて降りた。見上げたら優しい顔で私を見ていて、その顔を誰かに譲るのは嫌だなんて思っちゃう。


 匠海さんといるときの私は、どこまでもわがままになっていった。