詩音と海と温かいもの

 匠海さんと私、矢崎詩音が遊園地に行ったのは、私の期末試験が終わってからで、クリスマス直前だった。


 約束をしてから、なんやかんや一か月近く経っちゃったけど、期末試験前に行くわけにはいかなかったから仕方ない。

 試験最終日の午後に、匠海さんの授業が終わってから駅で待ち合わせた。

 次の日が試験休みで、そのまま土日だから三日半、一緒にいられる。


「試験どうだった?」

「どうかなあ、大丈夫だったと思うんだけど」


 そんなことを言いながら手をつないでスーパーに向かった。


「なんかクリスマスっぽいメニューにしようぜ」

「クリスマスっぽいメニュー?」

「チキンとか」

「じゃあシャンメリー飲む」

「よし、ケーキも買おう。いや、晩飯だよ。あ、キッシュだって。んー、でも惣菜買うくらいなら作りたい」


 匠海さんはお惣菜コーナーで悩み始めてしまった。

 本当に料理が好きなんだなって思う。


「ふふ、それなら匠海さんが作ったものを食べたいな。明後日、一緒に材料を買って作ろうよ」

「よっしゃ、そうしよう。じゃあ今日はチキンだけ買って行こうか。サラダは家に野菜あるし、米も炊飯器にセットしといたから」

「はーい」


 チキンとカットケーキだけ買って、匠海さんの部屋に向かった。

 炊飯器を開けたらピラフが入っていて、匠海さんがニコニコしていた。

 一緒にサラダも用意して、向かい合って食べた。


「おいしい!」

「だろー? 何度か試したんだ」

「そうなの? 匠海さんは努力家だねえ」

「そりゃ、せっかく来てくれるなら、美味いもん出したいだろ」

「詩音に?」

「詩音ちゃんに」

「ありがとう。すごく美味しい」


 食べたあと、一緒に片付けて、交代でお風呂に入った。

 お腹いっぱいで眠かったから、二人でさっさとベッドに横になった。


「明日、楽しみだな」


 匠海さんの腕の中で呟いたら、顔を覗き込まれた。


「怖いんじゃなかったの?」

「匠海さんとなら、怖くないよ。……ジェットコースターは乗らないけど」

「怖いんじゃん。メリーゴーランド乗ろう。あと、スカイシップと、円盤がぐるぐる回るやつと」

「うん。乗ろう。あと、写真撮りたい。匠海さんの写真ほしいな」

「一緒に撮ろうよ」

「匠海さんだけでいいんだけど」

「なんでだよ。俺は一緒に撮ったのがほしい」

「ふうん」


 ほしいのかな、それ。

 でも匠海さんは中学の文化祭でも、たくさん私の写真を撮っていたし、ツーショットも美海と夜に撮らせていた。


「匠海さん、一緒に遊園地に行くのは私で良かった?」

「どういうこと?」


 いつもより低い、ゆっくりした声で聞かれた。

 匠海さんの喉の辺りに顔をくっつける。


「んー、大学に、きれいなお姉さんがいっぱいいたから……」

「詩音ちゃんと行きたくて誘ったんだけど」

「そう? 子守させてばっかじゃない?」

「俺は詩音ちゃんと一緒にいるのを、子守だなんて思ったことない」


 背中をぎゅっと抱き寄せられる。

 匠海さんが少し転がって、私の体が半分下敷きになった。


「明日、楽しみにしてた」

「私もだよ」

「文化祭も楽しみだったのに、一緒に回れなかったし。だからまあ、埋め合わせ。……んー、でもさ、やっぱり俺が詩音ちゃんと遊園地行きたかったんだ」

「ごめんね、変なこと聞いて」

「いいよ。おやすみ」


 私も匠海さんの背中に手を伸ばした。


「おやすみなさい、匠海さん」


 文化祭のことを思い出すと、胸にまた嫌な気持ちが広がるから、匠海さんに強くしがみついて、目を閉じた。