詩音と海と温かいもの

 次の日の昼に、寝っ転がってぐうたらしていたら美海から電話がかかってきた。


『お兄ちゃん、詩音と連絡取った?』

「一応、昨日の夜にごめんねってのと、次どっか行こうとは言った」

『そっか。詩音は何にも言わなかったけど、しょんぼりはしてたからさ。なあに、あの人』

「よくわからん。なんか嫉妬だか、面白くなかったみたいなことは言ってたけど」

『ふうん』

「詩音ちゃん、しょんぼりしてた?」


 そう聞くと、スマホの向こうで美海が唸った。


『うーん。微妙』

「微妙ってなんだよ」

『そもそも詩音ってあんまり弱音を吐かないでしょ』

「うん」

『だから、残念だけど、仕方ないって口では言ってた』


 言いそうだなと思って、頷いた。

 現に昨日の夜の電話でもそう言ってたし。

 でも美海は詩音ちゃんと付き合いが長いし、詩音ちゃんも美海にはあれこれはっきり言うことが多いから、逆に遠慮したらすぐに分かるんだろう。


『でも、んー』


 美海が言いよどんだ。


「なんだよ」

『えー、あのさ、怒らないで聞いてほしいんだけど。いや、怒ってもいいけど、私に怒ってもしょうがないよっていう』

「まどろっこしくて、意味わかんねえ」

『詩音が……あの人がお兄ちゃんの彼女なら、お兄ちゃんの部屋に行くのはやめようかって』


 マジか。

 言葉が出ない。

 なんつーか、えっ、そう見える要素あった? って感じ。


『でも、んー、絶対にそれはないじゃない? 彼女じゃないってお兄ちゃん言ってたし、むしろ、あんまり好きじゃなさそうだったし』

「うん。別になんとも思ってなかったけど、昨日のあれで嫌いになった」

『だよねえ。だから、詩音にはそう言ってある。それに、お兄ちゃん、あの人から詩音のことかばったでしょ。あれは嬉しかったみたいだし』

「あー、そう……」


 そうか。それは、伝わったのか。

 つーか、伝わったんなら、なんで先輩が俺の彼女だなんて思っちゃうんだ。


『でも私たちがいなくなるまで、あの人詩音のことすっごい睨んでたから、やっぱり怖かったんじゃないかな。あのね、大人げないよ』

「マジかよ。大人げなさすぎるだろ。うん、わかった。教えてくれて、ありがと美海。次に帰るときはお前の好きそうなお菓子買って帰る」

『じゃあリクエスト送っておくね。あと宿題やって、冬休みの』

「それは自分でやれ。わかんなきゃ教えるけど、基本は自分でやれよ。ていうか夜と一緒にやるだろ?」

『まあね。じゃあ、またねえ』

「おう、また」


 電話を切って、スマホをベッドに放った。


 時計を見ると昼過ぎ。
 今日は俺が文化祭明けで疲れているだろうし、夕方からはバイトもあるから、詩音ちゃんと会う約束はしなかった。

 本来なら、文化祭を一緒に回るつもりだったし。

 寝っ転がったまま、もう一度スマホに手を伸ばす。

 「思い立ったら吉日」と「急がば回れ」が同時に思い浮かび、スマホから手を離した。