詩音と海と温かいもの

 全部食べて会計を済ませ、教室を出る。

 休憩に入った詩音ちゃんと合流して、校内を案内してもらった。


「詩音ちゃん、今日はずっと接客?」

「うん」

「……そっかあ」

「匠海さん、どしたの?」

「いや、いろんな人に『お帰りなさいませ』って言ってるんだと思って」


 詩音ちゃんはきょとんとして俺を見上げた。


「匠海さんもさっき、他の女の子に『お帰りなさいませ、ご主人様』って言われてたじゃん」

「そ、そうだけど」

「匠海さんはしょうがないなー」


 なぜか嬉しそうな顔で、詩音ちゃんは俺の手を掴んできた。


「あっちにカレー屋さんあるよ」

「食べる」

「ふふ、美海、夜、カレー食べようよ」

「いいよー。って、何で手えつないでるの?」


 振り向いた美海が、不思議そうに首を傾げた。


「匠海さんがかわいかったから」

「か、かわいくねえし!」


 かわいいのはそっちだろって思ったけど、詩音ちゃんが嬉しそうだったから、黙ってついて行った。



 カレーを食べて、縁日を見て、劇を見た。

 二時間くらい回って、また詩音ちゃんの教室に戻ってきた。


「じゃあ、私は戻るね。今日は来てくれてありがとう」

「ううん、楽しかった。ありがと」

「僕も楽しかったよ。次は冬休みかな。手紙書くよ」

「わかった、待ってる。匠海さんもまたね」

「おう。遊びに行きたい場所考えといて」

「うん、あとで連絡するね」


 手を離すと、詩音ちゃんがニヤッと笑った。

 スカートに手を添えて、頭を下げる。


「行ってらっしゃいませ、旦那様方」

「……すぐ帰ります」

「お兄ちゃん、もう帰るよ」

「やだー」

「みんな、またね」


 名残惜しかったけど、仕方ない。

 美海に引きずられるようにして、文化祭を後にした。



 再びバスに乗って駅まで戻り、美海と夜を見送った。


「気をつけて帰れよ」

「うん。……お兄ちゃん、詩音がかわいいのはわかるけど、えっと付き合ってないならほどほどにね」

「それは……いや、うん。気をつける。あ、今度俺の大学でも文化祭あるから、来いよ」

「ありがと。あとで日付とか教えてね」


 二人は笑顔で改札の向こうへ消えていった。

 俺は一人で歩き出した。