詩音と海と温かいもの

「おかえりなさいませ、旦那様方」

「お、おお……」


 キラキラした美少女が、クラシカルなメイド服姿で出迎えてくれた。

 ちょっと眩しすぎて、腰が引ける。

 三人で奥の席に案内された。

 すぐに、別の綺麗なメイドさんがメニューを持ってきてくれたと思ったら、詩音ちゃんだった。


「美海、夜、匠海さん! 来てくれてありがとう!」

「詩音かわいい! 写真撮らせて!」

「いいよ~。その間に匠海さん、メニュー見ててよ」

「俺も撮るよ!」

「えー、じゃあ先にメニュー決めて。伝えたらまた戻ってくるから」


 メニューは飲み物と軽食、それに簡単なデザートだ。

 俺はコーヒーとサンドイッチ、美海は紅茶とカップケーキ、夜はコーヒーとロールケーキにした。


「じゃあ、写真撮ろう」


 戻ってきた詩音ちゃんは、俺のスマホをパッと取って俺らに向けた。


「匠海さん、あとで送って」

「送るけどさ。ちげーよ、詩音ちゃんの写真撮らせろよ」

「かわいく撮ってね」

「いつもかわいいから大丈夫。美海並べ。夜はいらねえ」

「なんで。僕も映るよ」


 わいわい言いながら何枚も撮った。

 最後に俺と詩音ちゃんで撮って、彼女は持ち場に戻っていった。


「匠海さん、詩音に甘くないですか?」

「普通だけど」

「いつもあの調子ってこと? 付き合ってるの?」

「アホか。犯罪だっつの」


 呆れた顔の夜と美海に肩をすくめていたら、詩音ちゃんがトレーを持って戻ってきた。


「お待たせしました」


 詩音ちゃんは練習したのか、滑らかに食器を並べていった。

 ……つーか、使われてるカップや皿が、めっちゃ高いやつだ!

 こんなところでお嬢様を感じるとは思わなかった。

 コーヒーと紅茶も、すごくいい匂いがする。


「詩音も料理するの?」


 美海が紅茶を飲みながら顔を上げた。


「うん。昨日は調理担当だったよ」

「ふうん、詩音ちゃんが作ったのも食いたかったな」

「じゃあ、今度行ったときに作るね」

「やった」


 夜がコーヒーにミルクを入れながら、首をかしげた。

 ミルクも、ちゃんとミルクピッチャーに入っていた。


「詩音、匠海さんの部屋にしょっちゅう行ってるの?」

「そんなでもないよ。月に二、三回」

「ほぼ週一……?」


 なぜか引きつった美海の顔を見て、俺と詩音ちゃんは顔を見合わせた。


「そうだっけ?」

「さあ……あんまり気にしてなかったけど」

「行っても、宿題してごはん作って寝てるだけだもんね」

「そうだなあ。もうちょいどっか行くか。詩音ちゃん、行きたいところ考えておいて」

「わかった! じゃあ戻るね。あと三十分しないうちに休憩だから、一緒に回ろう」


 詩音ちゃんはトレーを小脇に抱え、頭を下げて戻って行った。

 そのまま見ていると、教室に入ってきた父兄を


「おかえりなさいませ、旦那様」


 と席に案内していた。


「お兄ちゃん、ひどい顔してるけど」

「いつもこんなもんだろ」


 手元のサンドイッチをかじった。

 うまい。うまいけど、もうちょい辛子が多くてもいいかもしれない。

 俺用に詩音ちゃんに作ってもらうときは、辛子を用意しておこう。


「……匠海さんって、なんていうか、こんなにわかりやすい人だったんだね」

「なにが?」

「無自覚かあ……」


 美海と夜が顔を見合わせていた。

 なんだよ……。