数日後の土曜日の夕方、私は匠海さんの部屋で正座していた。
「匠海さん、十月の第三週の土曜日って空いてる?」
「まだ十月のシフト入れてないけど、なに?」
「あの……」
匠海さんは胡座をかいてパソコンに何かをかたかた打ち込んでいたけど、私に気づいて顔を上げた。
どうしよう、話し始めたら、急に気恥ずかしくなってきた。
文化祭で私のクラスはメイド喫茶をやることになった。
私はクラシックなロングスカートのメイド服を着て、「お帰りなさいませ、ご主人様、奥様」と挨拶をすることになる。
……そんなの、私に似合うのかなあ。それに、それを見た匠海さんはなんて言うんだろう。
「詩音ちゃん、ちっとも似合わないね」
なんて言われたら立ち直れないし、逆に苦笑しながら、
「かわいい、かな?」
って誤魔化されたら、たぶんもう、ここには来れない。
「詩音ちゃん?」
黙り込んだ私を、匠海さんは不思議そうに覗きこんだ。
ダメだ。恥ずかしくて顔が見られない。
「あの、お願いがあるんだけど」
「うん」
「恥ずかしいから、ちょっと、後ろから話していいかな」
「んん? いいけど……何?」
私は立ち上がって、匠海さんの後ろに座った。
顔を匠海さんの背中にくっつけて、後ろからお腹に手を回し、ぎゅっとしがみついた。
「十月の第三土曜日に、うちの学校で文化祭があるから、よかったら来てほしい」
「行く行く。それ、なにが恥ずかしいの?」
「あー、あのね……あの……」
匠海さんは片手で、お腹にある私の手を握ったり、指先を揉んだりしていた。
「笑わないでね」
「俺、詩音ちゃんのこと笑ったことねえよ」
指が絡んだから、思わずきゅっと握った。
握り返されたから、意を決して口を開いた。
「詩音のクラス、メイド喫茶するの」
「へえ?」
「詩音も、その……メイド、するの」
「マジか。めっちゃ楽しみにしとく。写真は? 撮って大丈夫?」
「楽しみに、しててくれる……?」
「するよ、そりゃ」
匠海さんは、詩音の手をぎゅっと握って言った。
「メイド服ってどんなん? お嬢様学校だし、ロングスカート?」
「ん、こういうの」
私は手を離して、スマホを取り出した。
検索してメイド服を表示したら、匠海さんが振り返った。
「うわ、めっちゃかわいいじゃん。これ着るの?」
「似たようなの」
「マジか、楽しみだなあ。絶対似合うっしょ。美海と夜は? あいつら、去年行ってるだろ?」
「うん。美海に声かけてある。匠海さんが来てくれるなら、月曜日に三人分の申請出しておくね」
「絶対に行く」
匠海さんがニッと笑ってスマホを取り出した。
「予定入れとく」
そんなに楽しみにされると、それはそれで、やっぱり恥ずかしい。
でも、頑張らないとだ。
「匠海さん、宿題終わった?」
「もうちょい」
「終わるまでくっついててもいい?」
「えー、落ち着かねえよ」
「そっかあ」
邪魔しちゃ悪いし、立ち上がってベッドに転がったけど、このまま寝ちゃいそうだ。
昨日も匠海さんの家に宿題を持ち込みたくなくて、夜遅くまで起きてたし。
匠海さんの枕に顔を埋めた。
だめだ、本当に寝そう。
「詩音ちゃん?」
「ん……」
「ちょ、まだ寝るなって。そろそろ夕飯だけど?」
「んー……」
「ほぼ寝てんじゃん。……まあ、いっか」
お腹に布団が被せられた。
頭が優しく撫でられて、耳元に生暖かい息がかかる。
「おやすみ」
「もー、ドキドキして寝られないから、やめて」
目を開けたら、匠海さんがベッドの横に座って笑ってた。
「ダメだった?」
「ダメじゃないけどさ。ちゃんと起きて待ってるから、宿題終わらせて」
「仰せのままに」
枕を抱えながら、宿題に戻った匠海さんの背中を眺めた。
早く終わらせて、抱きしめてほしいな。
それで、文化祭の準備の話を聞いてほしい。
できれば「詩音ちゃんなら絶対似合う」ってもう一回言ってほしかった。
「匠海さん、十月の第三週の土曜日って空いてる?」
「まだ十月のシフト入れてないけど、なに?」
「あの……」
匠海さんは胡座をかいてパソコンに何かをかたかた打ち込んでいたけど、私に気づいて顔を上げた。
どうしよう、話し始めたら、急に気恥ずかしくなってきた。
文化祭で私のクラスはメイド喫茶をやることになった。
私はクラシックなロングスカートのメイド服を着て、「お帰りなさいませ、ご主人様、奥様」と挨拶をすることになる。
……そんなの、私に似合うのかなあ。それに、それを見た匠海さんはなんて言うんだろう。
「詩音ちゃん、ちっとも似合わないね」
なんて言われたら立ち直れないし、逆に苦笑しながら、
「かわいい、かな?」
って誤魔化されたら、たぶんもう、ここには来れない。
「詩音ちゃん?」
黙り込んだ私を、匠海さんは不思議そうに覗きこんだ。
ダメだ。恥ずかしくて顔が見られない。
「あの、お願いがあるんだけど」
「うん」
「恥ずかしいから、ちょっと、後ろから話していいかな」
「んん? いいけど……何?」
私は立ち上がって、匠海さんの後ろに座った。
顔を匠海さんの背中にくっつけて、後ろからお腹に手を回し、ぎゅっとしがみついた。
「十月の第三土曜日に、うちの学校で文化祭があるから、よかったら来てほしい」
「行く行く。それ、なにが恥ずかしいの?」
「あー、あのね……あの……」
匠海さんは片手で、お腹にある私の手を握ったり、指先を揉んだりしていた。
「笑わないでね」
「俺、詩音ちゃんのこと笑ったことねえよ」
指が絡んだから、思わずきゅっと握った。
握り返されたから、意を決して口を開いた。
「詩音のクラス、メイド喫茶するの」
「へえ?」
「詩音も、その……メイド、するの」
「マジか。めっちゃ楽しみにしとく。写真は? 撮って大丈夫?」
「楽しみに、しててくれる……?」
「するよ、そりゃ」
匠海さんは、詩音の手をぎゅっと握って言った。
「メイド服ってどんなん? お嬢様学校だし、ロングスカート?」
「ん、こういうの」
私は手を離して、スマホを取り出した。
検索してメイド服を表示したら、匠海さんが振り返った。
「うわ、めっちゃかわいいじゃん。これ着るの?」
「似たようなの」
「マジか、楽しみだなあ。絶対似合うっしょ。美海と夜は? あいつら、去年行ってるだろ?」
「うん。美海に声かけてある。匠海さんが来てくれるなら、月曜日に三人分の申請出しておくね」
「絶対に行く」
匠海さんがニッと笑ってスマホを取り出した。
「予定入れとく」
そんなに楽しみにされると、それはそれで、やっぱり恥ずかしい。
でも、頑張らないとだ。
「匠海さん、宿題終わった?」
「もうちょい」
「終わるまでくっついててもいい?」
「えー、落ち着かねえよ」
「そっかあ」
邪魔しちゃ悪いし、立ち上がってベッドに転がったけど、このまま寝ちゃいそうだ。
昨日も匠海さんの家に宿題を持ち込みたくなくて、夜遅くまで起きてたし。
匠海さんの枕に顔を埋めた。
だめだ、本当に寝そう。
「詩音ちゃん?」
「ん……」
「ちょ、まだ寝るなって。そろそろ夕飯だけど?」
「んー……」
「ほぼ寝てんじゃん。……まあ、いっか」
お腹に布団が被せられた。
頭が優しく撫でられて、耳元に生暖かい息がかかる。
「おやすみ」
「もー、ドキドキして寝られないから、やめて」
目を開けたら、匠海さんがベッドの横に座って笑ってた。
「ダメだった?」
「ダメじゃないけどさ。ちゃんと起きて待ってるから、宿題終わらせて」
「仰せのままに」
枕を抱えながら、宿題に戻った匠海さんの背中を眺めた。
早く終わらせて、抱きしめてほしいな。
それで、文化祭の準備の話を聞いてほしい。
できれば「詩音ちゃんなら絶対似合う」ってもう一回言ってほしかった。



