詩音と海と温かいもの

 新学期が始まって、私、矢崎詩音は思っていたよりずっと忙しかった。

 十月の後半に文化祭があるのだ。

 高等部と合同で行われる文化祭は、中学生としてはかなり大掛かりに感じた。でも女子校だから生徒が招待した人しか入れない。生徒一人につき三人まで招待できるけど、たとえ両親であっても事前に申請が必要だった。


 去年は美海と夜を誘って、余った一枚は友達に譲っていた。

 ……でも、今年は匠海さんを誘いたかった。

 どうかな、来てくれるかな。

 中学校の文化祭なんて、大学生の匠海さんからしたら、つまらなくないかな。

 散々悩んだ末に美海に電話して聞いてみた。


『お兄ちゃん? 喜ぶんじゃない?』

「そうかな。大学生からしたらしょぼくないかな」

『それはわからない。んー、詩音が誘ってくれたことに喜ぶと思う』

「そう?」

『そうだよ』


 きっぱり言い切るところが匠海さんそっくりだ。

 ならきっと、そうなんだろう。


『それにね』


 美海が笑って続けた。


『しょぼいのが心配なら、お兄ちゃんに見られても恥ずかしくない出し物をしたらいいよ』

「……たしかに」


 ちょっと男らしすぎる意見だった。

 それ、私一人でどうにかできる話じゃないんだけど。

 でも、そうやって日和ったら、匠海さんの前で胸を張れない気がする。


「うん、そうだね。匠海さんに喜んでもらえるように頑張る」

『がんばれ。私と夜も誘ってくれるんでしょ?』

「もちろん。楽しみにしてて」

『ありがとう、詩音』


 むしろ、お礼を言うのはこっちなのに。

 その後は美海と二、三言交わして電話を切った。