詩音と海と温かいもの

 次の日はいつもより早く起きて、家を出た。


「匠海さん、私が朝の海を見たいって言ったの、覚えててくれたんだ」

「そりゃ覚えてるよ」


 車内は静かだ。

 俺は運転に慣れてないから、集中してないと怖い。

 ラジオもBGMもなく、詩音ちゃんも言葉少なに座っている。

 来るときは俺の顔をじっと見てきて、緊張するから止めてもらった。

 そしたら、その後はずっと俺の手を見ていて、それはそれで気になる。家を出てからも、詩音ちゃんは俺の方ばかりを見ていた。

 高速に乗って速度が安定してから、詩音ちゃんに声をかけた。


「なんでずっと見てんの? おもしろくないでしょ」

「かっこいいから。写真撮っていい?」

「事故るといけないからダメ。パーキングで止まってるときにして」

「わかった」


 別にかっこよくもないと思う。若葉マークの、不慣れで下手くそな運転だ。

 それでも車で送り迎えしたのは、練習がてらと互いの荷物を運ぶのにこっちの方が楽っていう建前、それに詩音ちゃんの前でかっこつけたかったっていう本音。


 しばらく走って、まだギリギリ朝のうちにパーキングに着いた。

 相変わらず駐車は一発でできないし、停められても降りてみると車は斜めになってる気がする。

 詩音ちゃんはそんなこと気にも留めずに、


「匠海さん、行こうよ」


 と笑って俺の隣にやって来た。

 トイレを済ませてから、並んで朝飯を買いに行く。

 前回と違ってパーキングはガラガラだ。次も朝一で来れば空いてるんだろうか。

 ベーカリーでパンを買い込んで、浜辺のベンチに向かった。

 詩音ちゃんは海を眺めながら、サンドウィッチをちまちま食べている。


「匠海さん」

「ん」

「冬休みも来ていい?」

「いいよ。その次の春休みもおいで」

「ありがと、匠海さん」


 詩音ちゃんはぽてっと俺の腕にもたれかかった。

 抱き寄せるか頭を撫でるかしたかったけど、カレーパンを食べていて手がベタベタだったから、代わりに頭を傾けて詩音ちゃんの頭に軽く乗せた。


「いつでも来いよ。実家も、俺の部屋も。つーか、そろそろ詩音ちゃんの歯ブラシとかパジャマとか置いておこうか。毎回持ち歩くの面倒だろ」

「いいの?」

「いいよ」


 被せ気味に即答した。

 詩音ちゃんが寮に入っている間は、土日とか連休には遊びに来るんだろうし、置いておいてもいいだろ。


「匠海さん。……そのカレーパン一口ちょうだい」

「いいけど辛いよ」

「だいじょぶ」


 体を起こして食べかけのカレーパンを渡す。詩音ちゃんは笑顔で受け取って一口食べたけど、すぐに涙目になった。


「だいじょぶじゃなかった」

「あはは、水飲みな」

「辛い〜」


 ペットボトルを渡して、カレーパンの食べかけを返してもらう。一口で食べて、甘そうなパンを詩音ちゃんに渡した。


「ひー、辛かった」

「クリームパン食べな」

「ありがと〜」


 パンを食べ終えて、手をつないで浜辺を少しだけ散歩した。それから昼飯を買って車に戻った。

 二時間かからないくらいで部屋に戻って、昼飯を食べた。