詩音と海と温かいもの

 目が覚めると、腕の中に詩音ちゃんがいた。

 すやすやとあどけない顔で寝てるから、抱き寄せて目を閉じた。

 ……ここ、どこだ?

 飛び起きたら、そこは実家の一階の和室だった。

 やば……。


「たくみさん……?」

「あ、詩音ちゃん、おはよ」

「もう朝……?」


 ポケットに入ったままだったスマホを確認したら、まだ朝方だ。


「いや、まだ寝てていいよ。俺は部屋に戻るから」

「……うん」


 詩音ちゃんは不満そうに唇を尖らせて、俺の腕から離れた。

 もう一度手を伸ばした。

 彼女の耳元に顔を寄せる。


「俺の部屋に戻ったら、詩音ちゃんが満足するまで一緒に寝よ」

「……うん」


 詩音ちゃんの髪を指先で梳いた。

 耳朶にふに、と触れる。

 最後に親指の腹でそっと目尻を撫でて立ち上がった。


「またね」


 詩音ちゃんは何も言わずに、頭まで布団を被って真っ赤な顔を隠してしまった。

 俺は音を立てないように立ち上がって、部屋を出る。

 自分の部屋に戻ったけど、全然寝る気にならなかったから、宿題の確認をした。

 確認するまでもなく全部終わっていた。

 諦めてスマホをいじる。

 気がつくと、ドアから控えめなノックが聞こえた。


「ちょっと待って」


 窓を開けて換気してからドアを開けると、美海が立っていた。


「お兄ちゃん、おはよう」

「おはよ。どした?」

「昨日、詩音大丈夫だった?」

「うん、大丈夫。帰りに詩音ちゃんと買ったオヤツあるから、一緒に食いな」


 そう言ってビニール袋を渡したら、美海は複雑な顔をしてから受け取った。


「あの、お兄ちゃんと詩音ってさ」

「ん?」

「……あー、えっと、いつまで家にいる?」

「明日には戻るよ。でも俺は車返しに明後日、また来る」

「わかった。それ、お母さんたちに言った?」

「後で言う」


 美海は部屋を出ていった。

 時計を見たら、いつも起きる時間だったから、身支度を済ませて一階に降りた。

 台所を覗いたら珍しく母さんが朝ごはんを用意していた。

 リビングでは親父がおにぎりを食べている。


「おはよ」

「おはよ、匠海」


 振り向いた母さんの後ろから詩音ちゃんが顔を出した。


「おはよう、匠海さん。匠海さんの分も、すぐに出すね」

「ありがとう」


 親父の向かいに座ると、美海も来て親父の隣に座った。

 詩音ちゃんが俺と美海の分の朝ごはんを持ってきてくれる。


 ……なんつーか、すごく良かった。


 母さんと詩音ちゃんが仲良く並んで食事の用意をしている。

 昭和かよって言われたらそうなんだけど、グッときてしまったのだ。


「お兄ちゃん、どうしたのぼんやりして」

「あ、いや、何でもない。そうだ、俺と詩音ちゃん、明日戻るわ」


 朝飯を食べて報告を済ませてから、荷物をまとめた。

 詩音ちゃんも荷物を片付けて、昼は一緒に作る。

 午後は夜が来て、美海と詩音ちゃんと三人で縁側に並んで話し込んでいた。