詩音と海と温かいもの

「疲れただろ、先に風呂行ってこいよ」

「わかった」


 浴衣を脱いじゃうのはもったいないけど、仕方ない。

 匠海さんにかわいいって言ってもらったし。

 ふと思いついて匠海さんのところに戻った。


「ねえ匠海さん。写真撮ろう」

「おう」


 ぱぱっと髪を直して、匠海さんと並んで立った。

 肩をぎゅっと抱き寄せられて、スマホを向けられる。


「ん、こんなもんかな」

「なんか詩音、変な顔してる」


 見せてもらった写真の匠海さんと私がぴったりくっついていて、兄妹っていうよりカップルみたいで……いやいや、そんなわけない。


「いつもどおりかわいいけど」

「そんなことは……えっと、ありがと。お風呂行ってくる」


 私はなんだか無性に恥ずかしくて、小走りでお風呂へ向かった。

 交代でお風呂を終えた匠海さんが、私の借りている部屋に顔を出した。


「詩音ちゃん、さっき買ってきたおやつ、今食べる?」

「んー、明日にしようかな」

「わかった。じゃあ、おやすみ、詩音ちゃん」

「あ、待って匠海さん。私今週中に寮に戻るね」


 そう言うと匠海さんは頷いて戻ってきた。


「車出すよ。いつがいい?」


 私たちは一緒にカレンダーを見て、日付を決めた。


「あの、匠海さん。一個だけお願いしてもいい?」

「別に一個じゃなくて、いくらでもいいよ」

「寮に戻る前に、匠海さんの部屋に一晩だけ泊まっていってもいい? あの、夏休みの間、あんまり会えなかったから」


 匠海さんは目を細めて、痛そうな、泣き出しそうな顔をした。

 けれど、私が口を開く前に笑顔に戻った。


「いいよ。うちに泊まって、次の日の昼くらいに寮まで送る」

「ありがとう」

「……詩音ちゃんはさ」


 匠海さんは、また困ったように私を見つめた。


「なあに?」

「いや……もう寝る?」

「うん。匠海さんは?」

「俺もそうする。えっと、詩音ちゃんが寝るまで一緒にいていい?」

「いいよ。匠海さんが側にいる方がよく眠れるし」


 私が布団を敷いて横になると、匠海さんはすぐ隣に腰を下ろした。


「ね、匠海さん。手えつないで」


 差し出された手を握って目を閉じた。


「おやすみなさい、匠海さん」

「おやすみ、詩音ちゃん」


 低い声が耳元でささやいた。

 その声がないと寝られなくなりそうなくらい、甘い声だった。