詩音と海と温かいもの

「あ? 今取り込んで……げ、川瀬」


 振り向いた男の人たちの向こうに匠海さんと夜がいた。


「その子ら、俺の妹なんだけどさ、何してくれてんの?」

「や、悪い、知らなくて」

「つーか、こんな知り合いしかいないようなド田舎でナンパしてんじゃねえよ、バーカ」

「悪かったって!」


 男の人たちは顔を引きつらせたまま、そそくさと去って行った。


「ごめん、美海、詩音。僕が離れたから」


 半泣きの夜が美海に綿飴を渡し、私にもイチゴ飴を差し出してくれた。


「アホか。それはまあ、気をつけてほしいけど、悪いのは中学生ナンパする馬鹿どもだから」

「お兄ちゃん、ありがとう」

「おうよ。何もされてない?」

「大丈夫! 夜も綿飴ありがと」

「詩音ちゃん?」


 匠海さんが、ぱっと私の顔を見た。

 だから、顔を上げて笑った。


「大丈夫。ありがとう、匠海さん。イチゴ飴も嬉しい」


 でも、匠海さんはふっと真顔になって、何度か瞬きをした。

 それからゆっくり、夜の方に振り返る。


「夜」

「なあに、匠海義兄さん」


 夜がゆっくり答えた。

 どうしたんだろう。


「櫓の反対側で、お前の友達のにゃんとかくんが探してたぞ」

「……わかった。美海、行こう」

「え、うん?」


 夜は戸惑う美海の手を引いて行ってしまった。

 匠海さんは座ったままの私に手を差し出す。


「詩音ちゃんは俺と帰ろうか。途中でカルメ焼き売ってたから一緒に食おう」

「……うん」


 手を重ねたら、ぎゅっと握られて、そのまま引っ張られた。

 勢いがついて、匠海さんの胸にぶつかる。


「わ、ごめん」

「詩音ちゃん、浴衣似合ってるよ」

「えっ」


 耳元で言われて、思わず見上げたら、匠海さんが笑ってた。からかわれた、のかな。


「もー、匠海さん、いろんな人にそれ言ってるでしょ」

「言わねえから。詩音ちゃんにしか、言ってない」

「……ありがと」

「帰ろう」

「うん」


 匠海さんと手をつないで歩く。

 途中でカルメ焼きと綿飴とベビーカステラを買って、家に向かった。