詩音と海と温かいもの

 あと一週間ほどで夏休みも終わる頃。

 私、矢崎詩音は、ママさんに浴衣を着付けてもらっている美海を見て、なんとなくしょんぼりしていた。

 匠海さんはバイトと宿題で忙しくて、同じ家にいるのにほとんど顔を見られなかった。

 寂しい。

 でも、頑張ってるのは知ってるからワガママ言いたくない。できるだけ「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」だけ言って、それ以外は我慢していた。


「詩音ちゃんも、せっかくだし浴衣着ていくといいわ」

「詩音、浴衣持ってないよ」

「美海が着ていない浴衣があるのよ。お義母さんが着道楽だったから」


 キドウラク?

 私が首を傾げているうちに、ママさんは桐箪笥から浴衣を二、三着取り出してきた。


「これにしましょう。紫苑柄だから詩音ちゃんにぴったりね」

「ダジャレじゃん」


 美海がゲラゲラ笑った。

 こんな綺麗なの、私に似合うかなあ。

 でもママさんは「はい、脱いで」と言って、テキパキと私を着替えさせた。

 こういうきびきびしたところは美海にも匠海さんにも似ていて、私はけっこう好きだ。

 着付けと、髪もいい感じにしてもらって玄関に行ったら、夜が待っていた。


「こんばんは。二人とも綺麗だね。浴衣、似合ってる」

「あ、ありがと」


 美海が照れているのがかわいい。


「夏祭り?」


 振り向いたら匠海さんが階段から降りてきた。


「うん。匠海さんも行こうよ。夜と美海がイチャイチャするのに、詩音お邪魔になっちゃうから」

「ばーか」


 呆れた顔で匠海さんは笑った。


「子供が遠慮すんなっての。三人で行くの、何気に初めてだろ? 楽しんでこいよ。俺もこっちの友達と回る約束してるしさ」

「そっかあ」


 ちょっと残念だけど仕方ない。

 夜と美海と一緒に家を出た。


「詩音、お兄ちゃんと行きたかった?」


 少し歩いたところで美海が覗き込んできた。


「ちょっと」

「お兄ちゃん、そういうところ気が利かないから」


 美海が言うと夜が首を傾げた。


「んー、むしろ気を利かせたんじゃないかな」

「そなの?」

「詩音が気兼ねなく僕らと夏祭りを楽しめるように、気を使ってくれたんだと思うよ」

「……そっか」


 それなら、うん。
 楽しんでくるしかない。

 匠海さんもお友達と回るって言ってたし、途中で会えるといいな。

 浴衣が似合ってるかどうかも聞けなかったし。