詩音と海と温かいもの

「お兄ちゃんも詩音もおかえり!」

「美海も夜も、久しぶり!」


 川瀬さんの家の前で、美海と夜が出迎えてくれた。

 二人とぎゅうぎゅうくっついている間に、匠海さんが荷物を運んでおいてくれた。


「晩飯にパーキングで弁当買ってきたから食おうぜ」

「僕のもあります?」

「あるよ。感謝しろ」

「ありがとうございます、お義兄さん」

「お前に兄と呼ばれる筋合いはねえよ!」


 匠海さんと夜は相変わらずのやり取りをしていて、美海が呆れた顔をした。

 ごはんの後、寝ようとしたら美海が部屋に来た。


「一緒に寝ていい?」

「もちろんだよ」


 二人で布団を並べて敷く。

 それぞれの学校の話をしているうちに、瞼が重たくなってきた。


「ねえ、詩音はさ……お兄ちゃんのこと、どう思う?」

「ん……美海がうらやましいって思うよ」

「うらやましい?」

「うん。匠海さんはかっこよくて、優しくて、料理上手で、それに美海のことをすごく大事にしてる。いいなあ、詩音も、匠海さんみたいなお兄ちゃんほしいな」


 美海は何も言わない。

 私は眠くて、美海がどんな顔をしているのか確かめられなかった。


「……お兄ちゃんは、詩音のこともすごく大事にしてると思うよ」

「そう、かな」

「うん。だから……いや、止めとく。詩音とお兄ちゃんが考えることだから」

「うん……?」

「おやすみ、詩音」

「ん……おやすみ、美海」


 それきりどちらも何も言わなかった。


 私はまどろみながら、美海の言っていたことを考えた。

 匠海さんが、私に優しくしてくれてるのはわかってる。

 妹の友達としてはもったいないくらいに、大事にしてくれているのも。

 だからこそ私は、これ以上大好きな匠海さんの迷惑になりたくなかった。

 瞼の裏に、昼間見た海の色が映る。

 迷惑になりたくないけど、でもまた匠海さんと海であのキラキラを一緒に見たい。

 私はどうしようもなく、ワガママだった。