詩音と海と温かいもの

 帰ってシャワーを浴びてベッドに倒れ込んだところでスマホが鳴った。


『こんばんは、匠海さん。今大丈夫?』

「大丈夫。風呂出たとこ」


 むしろ声が聞きたかったから、電話くれて嬉しいって口走りそうなのをなんとか堪えた。

 さっきさんざんロリコンだの過保護だの言われたのを、ちょっと気にしてる。


『あの、来週から夏休みでしょう? 匠海さんは帰省する?』

「その予定だけど、あ、詩音ちゃんも……」

『待って、自分で言うから。夏の間、川瀬さんのお宅で厄介になってもいいでしょうか』

「もちろん」


 俺は即答した。むしろちょっと被せ気味だったかも。

 スマホの向こうでホッとしたような気配がした。

 バカだな。そんなの当たり前なのに。


『ありがとう。あ、美海にも連絡するね』

「おう。全然厄介なんかじゃないから、気にせずおいで。美海も夜も喜ぶだろうし」

『そう言ってくれると嬉しいな』


 その後は互いに今日何してたかを三十分くらい喋って、おやすみって言い合って電話を切った。

 スマホを充電器に乗せて、部屋の明かりを消して目を閉じる。

 次に詩音ちゃんに会うのは半月後くらい。

 最近は試験勉強を口実に週一で会ってたから、二週間空くと変な感じがする。


 アホか。彼女でもないのに。

 妹の友達なんだから、せいぜい年一でも会えば十分な間柄のはずだ。それだって二人きりで会うことなんてないだろう。


「……寝よう」


 なんも解決してないけど。

 解決ってなんだよ。そもそも問題すらどこにもないはずだ。

 あの子は美海の友達で、帰省できないからたまに様子を見てるだけの、俺のかわいい女の子なんだから。