詩音と海と温かいもの

 俺、川瀬匠海は、大学に入って最初の期末試験を終えた。

 まあ、たぶんそんなに悪くないだろう。

 詩音ちゃんも今日、試験が終わるって言ってたし、お互いお疲れさまってことで、一緒に飯でも行こうか。

 そう思って連絡したら、詩音ちゃんは友達と約束をしているのだと断られた。


「しゃーないから、お前付き合えよ」


 近くにいた大学の友達に声をかけたら、そいつはニヤッと笑った。


「川瀬、彼女に振られた?」

「彼女じゃねえけど。でも振られたから飯行こう」

「飯の後、ゲーセン行こうぜ。駅の向こうのとこ。バッティングセンターも併設してるって」

「やったことねえなあ」


 男ばっかり、何人かで歩き出した。

 途中で基礎ゼミが一緒の女子たちも合流して、なんだかんだ大人数で駅の方へ向かった。


「川瀬くんって彼女いるの?」

「さっき振られたんだろ?」

「だから、彼女じゃねえし。預かってる子だって」

「ふうん、こぶ付きだ」


 言い方が最悪だった。

 あの子はこぶなんかじゃない。


「言い方が失礼すぎるだろ。俺の……大事な美少女になんてこと言うんだ」

「俺の」「俺の?」「その子いくつ?」


 一斉に言われて返事に迷った。


「いくつだっけ。中二だよ」

「ロリコンだ」

「そういうんじゃねえから!」


 完全にからかわれてる。

 つーか、俺はさっき何を言おうとしたんだろう。

 俺の、俺の大事な……? いや、俺のじゃねえし。


「でもさー」


 隣を歩いていた女の子が、半笑いで俺を見上げた。

 詩音ちゃんの方が少し背が高いとか、どうでもいいことに気づいた。


「川瀬くん、先輩にも誘われてたでしょ?」

「なんの話?」


 ちっとも心当たりがなくて聞き返すと、反対を歩いていた友達が笑い出した。


「あー、あれね。ちょっと前に先生がレストランのペアチケットくれたじゃん。それで『私も久しぶりに行きたいな~、誰か誘ってくれないかな~、ね、川瀬くん?』って言われてただろ?」

「……ああ、なんか言ってたね。あれ、俺に誘って欲しかったってこと?」


 それを言ってきたのは先生のゼミに所属してる三年生の先輩だけど、全然気づかなかった。

 だって、その時にはもう詩音ちゃんを誘ってたしさ。


「そうだよ。気づけよ。結局、あれだろ? 川瀬はいいとこのお嬢さんと来てたって先生が言ってた」

「それが、川瀬くんの美少女ちゃん?」

「そうだよ。俺のじゃねえけど、一緒に行ってきた」

「写真ある?」

「あるけど見せない。減ったら困る」

「減らねえよ。過保護か」


 なんやかんや騒ぎながら駅近くのファミレスまでやってきた。

 適当に食ってからゲーセンに移動する。

 夜まで遊んで、ファーストフードで晩飯を済ませてから部屋に戻った。

 他の連中はオールでカラオケに行くって言ってたけど、俺は眠いし明日バイトだからパスした。