詩音と海と温かいもの

 ふと思いついてスマホを向けたけど、やっぱりやめた。


「写真、撮った?」

「ううん。勝手に撮るのはダメかなって思って止めた」

「別にいいのに。詩音も匠海さんのこと撮っていい?」

「いいけど、俺撮っても面白くなくない?」


 そう言うと詩音ちゃんはスマホを取り出して、俺に向けた。


「ううん。さっき言ったでしょ。匠海さんはかっこいいから、たくさん撮っておきたい。そしたら、会えないときも寂しくないよ」

「……俺に会えないと寂しいんだ?」


 意地悪な聞き方だったのに、詩音ちゃんは素直に頷いた。


「寂しいよ。だから撮らせて」

「いいよ。俺にも撮らせて」

「うん。かわいく撮ってね」


 なんつーか、さ。

 この距離感って、妹の友達とのやり取りとして適切なんだろうか。

 そんなこと言ったら、同じベッドで寝てる時点でダメダメなんだけど。

 でも、再会したときに泣いてたこの子が、もう泣かずに済むなら、俺はなんだってできると思ったんだ。

 飯くらい作るし、写真なんかいくらでも撮ってくれていい。


「詩音ちゃん」

「なあに?」

「俺のこともかっこよく撮ってよ」

「もちろん」


 彼女は笑って、俺にカメラを向けた。

 でもすぐに首を傾げた。


「んー。匠海さんを一番かっこよく撮るなら、やっぱり料理してるときかなあ。詩音ね、匠海さんが料理してるときの横顔が一番好き」

「……じゃあ、帰ったらまた一緒に飯作ろうか」

「うん!」


 その笑顔が少しぼやけて見えたのは、たぶん五月の陽射しが眩しすぎたせいなんだろう。そうに違いない。