詩音と海と温かいもの

 まだ早いけど、明るいところで詩音ちゃんとくっついて横になるのはちょっとアレだから、さっさと電気を消すことにした。

 仄暗い部屋の中で、ベッドに横になった。

 腕を伸ばすと、詩音ちゃんの頭が乗って、思ったよりも近い。

 つーか俺、彼女にだって腕枕なんてしたことねえよ。

 高校入ってすぐ彼女できたけど、一瞬でフラれたから、そこまでいかなかったし。


「匠海さん」


 詩音ちゃんの細い腕が背中に回って、華奢な体がぎゅっとしがみついてきた。


「ありがとう、匠海さん。詩音、匠海さんと一緒にいられて嬉しいんだ。……ありがと、おいでって言ってくれて。ありがとう、詩音のこと、追い出さないでくれて」


 思わず詩音ちゃんを強く抱きしめた。

 なんだよ、それ。

 追い出さないなんて当たり前で、感謝されるようなことじゃ絶対にないのに。


「詩音ちゃんは馬鹿だな。そんなの、当たり前だろ」

「そんなことないよ」


 詩音ちゃんは俺の首元に顔を埋めた。

 どんな顔でそれを言ってるんだろう。

 どちらかと言えば、知りたくなかった。


「誰かに大事にされるのも、抱きしめてもらうのも、邪魔にされないのも、当たり前なんかじゃないよ」


 なんて言えばいいのか分からなかった。

 小さな体を抱きしめた。

 そんなの、こんな子供に言わせていいことじゃないだろう。


「詩音ちゃん」

「なあに、匠海さん」

「少なくとも、俺にとっては当たり前だよ。詩音を大事にするのも、こうやって抱きしめるのも、一緒に飯食うのも、手ぇつないで歩くのも当たり前のことだから」


 だから、なんなのか。

 その後は続けられなかった。

 詩音ちゃんも何も言わない。

 でも、せめて、俺が側にいるときくらいは、それが当たり前だと思っててほしかった。


「詩音ちゃん」

「ん」

「おやすみ。また明日。朝飯も一緒に作ろう。俺、このあたりに何があるか、まだよくわかんないから一緒に散歩して、一緒にスーパー行って、また一緒に飯作って寝よう」

「……うん。おやすみなさい、匠海さん。また明日」


 小さな手が、俺の背中に食い込んだ。

 胸元が温かくて、よく眠れそうだった。