詩音と海と温かいもの

 その後、パパさんが車を出してくれたから、そのまま四人で予約していたレストランへ向かった。

 前に匠海さんと行った、いいホテルのいいレストランだ。


「おいしい……!」

「本当にねえ。匠海もこういうの作るの?」


 ママさんが目を輝かせて匠海さんを見た。


「そういう実習はあったけど、こういう道に進もうとは思ってないかな。それだと地元に戻れないし」

「別に戻ってこなくてもいいだろ」

「えー、戻らせてくれよ。俺は地に足が着いた生活がしたいんだ」


 苦笑する匠海さんに、パパさんも同じような顔をした。


「せっかくすごいことができるのになあ。美海も小崎町に残りたいって言うし」

「夜は?」

「夜くんも隣町のプラネタリウムで働きたいんだってさ。中学の卒業式が終わったらバイトの申し込みに行くって張り切っていたよ」

「ふうん。あいつこそ頭いいんだし、天文系なら研究機関でもなんでもあるだろうに」

「もったいないよなあ。夜くんが地元に残るならって、美海も地元でできる仕事を考えてるみたいだし。詩音ちゃんは? せっかくだし、匠海を連れ出してやってほしいけど」

「私も、小崎町での就職を考えてました。公務員なら働き口があるかなって」

「うう、もったいない……」


 ママさんが渋い顔になってしまった。

 川瀬さん夫婦はそろって大企業に務めている。

 パパさんはこのままいけば重役で、ママさんもそこそこの地位にいるのだと匠海さんと美海からは聞いていた。

 そんな二人からすれば、子供たちが田舎でのんびり暮らしたいっていうのは、もったいなく見えるのかも。



 ちなみに、そういう社会的地位が川瀬さんたちにあるから、父は川瀬さんたちを信用して私を任せた……という経緯もあった。

 まあ、「矢崎重工の社長夫婦は娘を放置するネグレクト夫妻」なんて、取引先の部長夫婦から言われたくなかったからなんだけどね。

 そういう打算しかなかったとしても、川瀬さんのおうちに置いてもらえたのは、私としてはありがたかった。