詩音と海と温かいもの

 バスで図書館に行って、進路や就職の本を探す。

 ついでに俺も調理や栄養系の仕事を調べた。

 来年には就活だし、今年の後半からは専門の授業だって増える。

 どうすっかなあ……。


 詩音ちゃんは本を読んだり、俺の顔を見たりしながら唸っていた。

 中学生ならそんなに焦らなくてもいいと思うけど、実家から離れたい詩音ちゃんは考えるところがあるんだろう。

 でも、聞いてみたら理由はそれだけじゃなかった。


 図書館の外にあるベンチで缶ジュースを飲みながら、詩音ちゃんは難しい顔をした。


「あのねえ、うちの学校はカリキュラムをたっくさん用意してくれてるの。だから逆に、ちゃんと考えて取らないと、取りこぼしたり、重なって取れなかったりしちゃうんだよね」

「なるほど……」

「匠海さんが言うとおりの理由もあるよ。高校までは寮に住まわせてもらえるけど、大学からはどうしよう……とかね。うちの学校、家業を継ぐ以外の理由での高卒で就職は認めないだろうし」


 お嬢様学校なんだなあ。

 田舎の普通の公立高校出身の俺には全然わからん。


「大変だなあ」

「匠海さんは?」

「……な」


 思わず声が小さくなって、詩音ちゃんが吹き出した。


「匠海さんも進路悩んでるの? 大学の就活っていつから?」

「来年から。困ったよね……」

「小崎町に戻るの?」

「それも悩んでる。小さい町だから、そもそも働き口があるんだかないんだか」

「あー……」

「あるとしたら公務員だよな。俺なら学校給食や、老人ホームの栄養士とかね」


 詩音ちゃんは「なるほど」と頷いた。


「小崎町の公務員かあ」

「そう。小崎町の町役場や、隣の大崎町でもいいし、学校の先生って手もある。高校家庭科の教員資格が取れたはずだし」


 手にしていた缶ジュースを一気飲みした。


「ま、何でもいいけどさ。詩音ちゃんがやりたいことや、なりたいものがあるなら、俺は応援する。だから、俺が就活で落ち込んだり疲れてたりしたら、慰めてくれ」

「わかった」


 詩音ちゃんは俺にもたれかかった。

 進路のことでずいぶん悩んでいるみたいだ。


「匠海さん」

「ん?」

「……えっと、買い物行こうか」

「おう。何食いたい?」

「えっとねー、春っぽいもの」

「じゃあ、スーパーで食材を見てみよう」


 晩飯は菜の花のチャーハンと、わかめとたけのこのスープ。たけのこは丸ごと茹でたかったけど時間がかかるから、水煮を買った。次は丸ごと茹でて、たけのこ定食を作りたい。


「おいしい。……匠海さん、日に日に腕を上げるよね」

「そう? まー毎日やってるからね」

「……詩音、ずっとこうしてたいな」


 れんげでチャーハンを集めながら、詩音ちゃんが呟いた。


「ずっと?」

「うん。匠海さんとごはんを食べて、一緒に寝て起きて、そういうのがいいな」

「プロポーズじゃん……」


 思わず呟いたら、詩音ちゃんはまた難しい顔になった。


「ごめん、今の俺、キモかったよな」


 急いで謝ったら、詩音ちゃんはスプーンを置いた。

 黙ったまま残ったスープを飲み干して、真顔で俺を見上げた。