「夜!! こんな時間までどこで遊んでいたの!?」

「……」


 夜が帰宅すると怒鳴られた。当然のように母親である。いきなり玄関で怒鳴られて、夜は反論する気にもならない。


「夜!? 母親に言えないようなことしてたわけ!?」

「空き地で遊んでただけ」

「空き地でこんな時間までなにするの!! 嘘はつかないでっていつも言っているでしょう」

「嘘じゃない」


 夜の母親は彼女が納得する返事をするまで引かないし、夜も嘘ではないのだからと一歩も引かない。

 いつもこうして揉めるから、夜はそうなる前に帰宅するようにしていたが、今日は詩音が帰りたくなさそうにしていたから、遅くなった。

 本心を言ってしまえば、夜だって小言ばかりの母親なんか放っておいて、いつまでだって詩音や美海と一緒に遊んでいたい。

 そうはいかないとわかっているから帰ってきたというのに、どうしてここまで言われなくてはいけないのか。


「母さんはぼくを全く信用していない」

「信用されるような行動を取りなさい!」

「信用する気がない人に、何をしたって無駄じゃないか」

「なっ!?」


 母親が怯んだ隙きに夜は自室へ移動しようとした。けど、夜の後ろで再びドアが開いた。


「ただいま。なにを騒いでいるんだ。声、外まで響いてたぞ」

「あなた、おかえりなさい。だって夜がこんな時間まで遊び歩いていたのよ」

「そうなのか、夜?」

「ちょっと遅くなっちゃって」


 そうか、と帰宅した父親は、まっすぐに夜を見る。


「ちゃんと謝ったか?」

「謝る前に怒鳴られた」

「お前また……」


 父親は呆れたような顔で母親に視線を送る。母親はますます興奮したように叫ぶ。


「夜が本当のことも言わずに嘘をついて誤魔化そうとするから!」

「嘘じゃないって!!」


 思わず夜が怒鳴り返すと、母親は目を吊上げ、父親はなだめるように夜の頭に手をおいた。


「夜、父さんと母さんで話すから夜は部屋に戻っていなさい」

「……はい」

「勝手に決めないで! いい? 夜は夏の間は外出禁止よ。少しは家のことをしなさい!」

「落ち着きなさい」


 夜は言い返そうとしたが、父親に手で止められて自室に戻った。

 いろいろと釈然としないが今は父親に任せるしかないのだ。

 本当はあまり父親任せにしたくない。自分でなんとかしたい。

 でも母親は夜の言うことなんて聞かないのだから、どうしようもない。

 そういった気持がない混ぜになって、やりきれなくて、夜は泣き出しそうだった。