あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。







 〝でもそれってさ、たとえば向こうの男に女ができたら友達関係って終わりじゃね?〟

 のんべぇで白石がこんなことを私に言ったせいだ。

 一瞬にして頭の中が騒がしくなっていく。




 「おい、高野。何突っ立ってんだよ。寒いから早くタクシー拾うぞ」

 「あ、うん……」

 その場で立ち尽くすことしかできずにいると、白石は強引に私の手を引いてタクシー乗り場まで連れていった。

 強制的に北ヶ瀬さん達から距離ができた私は、それでもなお動揺の色を隠せずにいる。





 「お前さっきどうしたんだよ」

 タクシーを待っている間、白石は私にガムを一枚差し出しながらそう問いかけた。



 「えっと」

 「知り合いか?それともあの男が高野の元彼?」

 「……ううん。あの人が、アプリで出会った友達」

 「なるほどな。女、連れてたけどな」

 「……っ」

 「高野はあいつのことどこまで知ってんの?」




 北ヶ瀬さんについて、知っていること。

 日本でも有名な呉服店で経営マネージメントの仕事をしていること。

 兄弟は二人で、五つ上のお兄さんの結婚式を控えているということ。

 帰国子女で海外生活が長かったということ。味噌バターコーンらーめんが好きだということ。

 落ち着いた性格で大人っぽくて、だけどユーモアがあって話上手で、それでいて聞き上手。

 両方の口角を上げてにっこりと笑うと少しだけ幼くも見えること。



 ──それだけだ。

 たった、それだけだった。



 「あんまり、知らないかも」

 「だろうな」



 これまでに北ヶ瀬さんとはもう何度も一緒に食事を共にしたり、映画を観に行ったり、ショッピングも一緒にしたりした。

 たくさん会って、会話を重ねて、いろんなことを知った気でいたけれど、肝心なことは何も知らない。



 あえて聞かないようにしていたこともある。

 いくら私達が友達とはいえ、まだ出会って日の浅い関係だから。




 今だってそうだ。

 ただ『隣にいた女性は誰?』とさえ聞けない。



 「(友達だからこそ、聞けないこともあるんだ)」

 女性関係のことは特に、私は質問する権利を持っていない。