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私と白石の行きつけのお店である居酒屋『のんべぇ』は、平日だというのに今日も大繁盛だ。
のんべぇ自慢の唐揚げとだし巻き卵は本当に美味しくて、私達もここへ来ると必ず注文してしまう。
その二品に加えて、白石は顔馴染みの店員にビールと枝豆を二人前、それから鰹のタタキとポテトサラダをメニューも見ずに注文した。
「──で?最近どうなの?」
「んー、ノルマは余裕で達成済みだよ。ただ一件、来年新しく大型スーパーの建設予定があるんだけど、そこって立地がかなり高級住宅街寄りなんだよね。だからうちの商品の取り扱いが若干減りそうっていうか……」
「いや、仕事の話じゃなくてな?」
「へ?」
「高野のプライベートの話」
テーブルの真ん中に置かれたビールを手に持って、乾杯へ進もうとしていた私はそのまま動きを止めた。
「高野って予想外なことが起こると一旦動きが止まるよな」
「な、なんで白石にプライベートの話を?」
「俺達、そういう仲だったろ?」
「違いますけど!?」
「いいからとりあえず乾杯しようぜ」
「ちょっ、危ないってば溢れるでしょ!」
白石は勢いよく私のジョッキに一方的な乾杯をぶつけて、豪快に喉を鳴らしながら飲んでいく。
いつも白石にはペースを崩されるんだから、と毒づきながらも、長年の付き合いというものは恐ろしいもので、そんなことでさえ受け入れられるようになっている自分にも驚いた。
「それで?新しい男とはどうなってんの?」
「……」
「今さら照れることでもないだろ。ここ数ヶ月くらいずっと俺達忙しかったからな。そろそろ近況報告会といこうぜ?」
白石のことは、同期であり、気心の知れた仲で、そしてライバルだとも思っている。
まだ成績は一度も追い抜いたことはないけれど、いつか白石に変わって優秀社員賞を奪い取ってやるんだから、という密かな目標を持っていることは内緒だ。
けれど、悔しいことに白石にはカリスマ性がある。
どんな場においても、この男には周りを先導していく力がある。
「人に聞くならまず自分から、でしょ?」
どれだけ白石にプライベートの話をすることを拒んでも、結局はこうして彼の思いどおりに物事が進んでいってしまう。
そのせいで里英にしか言えなかったことも、大抵同じくらい白石にも知られてしまっているのが現状だ。



