薔薇と初恋~10年間、ずっと守られていたなんて知りませんでした~



第3話「重なる面影」


◯バイト先のケーキ屋(午前中)

真白が八神の家に住み始めて1週間が経った。

桃井「どう真白ちゃん? 社長の家での生活にも慣れてきた?」

開店の準備をしながら話す桃井と真白。

真白「多少は⋯⋯? 毎朝、アパートで暮らしてた頃とのギャップに驚きますけど」

桃井「そりゃあ社長の家だものね〜。社長とは仲良くやれてる?」

真白「仲良く⋯⋯そうですね。あまりにも優しくて正直、戸惑います」


真白(昨日も課題をやってる私にコーヒーを淹れてくれた)

真白の部屋にコーヒーを持って現れる八神の回想絵。


桃井「なんとなく想像がつくわ」

真白「秘書の鮫島さんは表情が変わらない人だけど、何かと私のことを気にかけてくれていて、お手伝いの塩田さんとも一緒に料理をしたり、買い物に行ったりして⋯⋯なんだか施設にいた頃を思い出します」

桃井「そう」

桃井が優しい眼差しを向けながら真白の話を聞く。

桃井「大学はどう?」

真白「どちらかと言うと、そっちのほうが問題ありかもしれません」

桃井「えっ?」


◯大学・教室(昼)

真白(大学に入学して1か月と2週間が経つのに未だに友達はゼロ)

真白「友達ってどうやってつくるんだったっけ?」

教科書をパラパラとめくりながらボソッとつぶやく真白。


真白(中高生時代は私が施設で暮らしてることを皆知っていたから、周りとは少し壁があった。友達と呼べる存在がいたのは小学生の頃が最後。でも、)

女の子『お母さんが真白ちゃんとは遊んじゃだめだって』

9歳の真白が友達の女の子に背を向けられる回想絵。

真白(あの頃だって、友達だと思っていたのは私だけだったのかもしれないな)



乃亜(のあ)「うわ、最悪」

乃亜《18歳、ライトブラウンの長い髪にゆるいパーマ。派手目美女》

前の席で鞄の中身を机に広げる乃亜の姿が目に入った真白。

真白(同じ学部の子⋯⋯)

乃亜「終わったわー」

真白「あの⋯⋯どうかしたの?」


後ろの席から少し身を乗り出して乃亜に話しかける真白。

乃亜「え? ああ! 同じ学部の。実は、授業の内容をメモしたルーズリーフを間違って捨てちゃってさー」

真白「この授業の?」

乃亜「ううん、フランス語」

真白「フランス語って土居(どい)先生のだよね? 私もその授業取ってるからノートあるよ。コピーする?」

乃亜「本当⁉ めっちゃ助かるー! 捨てる神あれば拾う神ありってやつ⁉ あ、使い方違う⁉ まぁ、でも紙だけに神ってことでいっか」

乃亜はテンション高めのまま一人で話し続ける。

真白(今まで周りにいなかったタイプの陽キャだ)

目を瞬かせる真白。


真白「はい、これ」


真白はファイルからドイツ語のノート(ルーズリーフ)を抜いて、乃亜に渡す。

乃亜「ありがとう。コピー取ったらすぐに返すから。てか、うちら同じ学部だし、授業いくつか被ってるよね? 私、乃亜。よろしく」

真白「私、真白。よろしくね」

乃亜「真白ね、おっけー。隣、誰か来るの?」

真白の隣の空席の席を見ながら話す乃亜。

真白「ううん、誰も」

乃亜「じゃあ、隣座っちゃお」

乃亜は鞄の中身を雑にまとめると真白の隣の席へと移動した。

乃亜「真白は何かサークルとか入ってるの?」

真白「ううん。乃亜は?」

乃亜「私はテニサー。まだ5月で新入生歓迎ムードだから体験来る? 先輩たちから新入生いっぱい連れてきてって頼まれてるんだよね〜」

真白「私、バイト優先したいから難しいかも。ごめんね」

乃亜「飲みだけでも来ない? 授業のこと教えてくれたり、バイトを紹介してくれたりする先輩もいるよ」

真白「飲み会だけの参加なんていいの?」

真白(バイトは紹介してほしいけど、サークルに入る気もないのに参加するのはどうなんだろう⋯⋯)

乃亜「平気、平気。そういう子いっぱいいるよ。1回目は参加費もいらないから気軽に来ればいいよ。あ、今日早速集まる予定があるから一緒に行く?」

真白(今日はバイトも休みだし、一緒に行ってくれるなら心強い)

真白「うん。参加させてもらおうかな」

乃亜「了解。先輩に連絡しとくね。あと、真白の連絡先も教えて」

真白「うん」

真白と乃亜はスマホを出して連絡先を交換する。



◯居酒屋(夜)

縦長のテーブルが複数並ぶ座敷の席。

真白と乃亜は別テーブル。 

男A「それでは、テニサー交流会に乾杯〜!」

ヒゲを生やしたワイルドな男の先輩が乾杯の音頭を取り、周りの人たちもグラスを掲げる。

真白「か、乾杯⋯⋯」

真白は思っていた雰囲気と違うことに苦笑い。

男B「今年の1年生は可愛い子ばっかでテンション上がるわ」

女A「えぇ〜」



男A「おっ、初めて見る顔だねぇ。今日が初めて?」

男Aは真白の隣へと腰を下ろす。

真白「はい。経営学部、1年の椎名真白です」

男A「俺は商学部、3年で代表の遠藤(えんどう)。誰かの知り合い?」

真白「乃亜の⋯⋯」

男A「あー! 乃亜ちゃんのね」

食い気味に話す男A。

男A「真白ちゃんだったっけ? お酒飲む?」

真白「私まだ20歳になっていないので」

男A「えーっ、まっじめー」

酔っ払っている男Aはケラケラと笑う。

真白「今日は先輩たちから授業やバイトの話も聞けるって聞いて来ました」

話の流れを変えようとする真白。

男A「授業やバイトの相談? 乗る乗る」

真白(⋯⋯そう言ってかれこれ30分、恋愛や自分の話ばかり。周りもバイトの話なんて一切してない)

運ばれてきた料理を黙々と食べ続ける真白。

真白(まぁ、タダだからいいけど)

飲み会は終わり、居酒屋の店先で二次会に行く人に声を掛ける男B。


男A「真白ちゃんは俺と抜けちゃう?」

酔っ払って顔を赤く染める男Aが真白に近づいてくる。 

真白「私はもう帰ります」

真白は頭を下げる。 

男A「えぇー。授業とかバイトのこともっと教えてあげるよ」

男Aは真白の肩をなでるように抱いた。

真白の顔は一気に強張る。


真白「放してください」

男A「どうしよっかなー」

男Aの瞳がギラリと光る。 

真白が拳を握りしめた瞬間、背後から八神の声がした。


八神「俺の大切な子に触らないでもらえるかな?」

真白から男Aを引き剥がした八神。

近くには鮫島もいる。


真白「樹さん⋯⋯!」

真白はここにいるはずのない八神を見て驚く。

男A「お前、誰だよ」

男Aが八神の胸ぐらに掴みかかった瞬間、真白がその手を掴む。

真白「その手を今すぐ放してください」

男A「いて⋯⋯ちょ、痛い痛い。折れるって」

男Aは手を放すと舌打ちをした。

男A「大して可愛くもないのに調子乗ってんじゃねぇぞ」

男Aが隙をついて真白に殴りかかろうとした瞬間、八神が男Aを壁に押さえつけた。

八神「真白を侮辱する奴は俺が許さない」

男A(な、なんだよ急にこいつ。め、目がマジだ⋯⋯)

男A「あ、謝ります。すみません。すみませんでした」

男Aを解放する八神。男Aはゴホゴホと咳をする。


八神「鮫島」

鮫島「あとはお任せください」

八神は真白の手を取って車へと乗り込んだ。

◯車


真白「樹さんがどうして、ここに⋯⋯」

八神「会食の帰りだよ。真白ちゃんこそ、どうして急にサークルの飲み会なんか⋯⋯」


真白「同じ学部の子からサークルの飲み会に参加したらバイトを紹介してくれるかもしれないって言われて」

八神「バイト? バイトならもうしてるだろう?」

真白「短期バイトでもお金を貯めたいなと思って。樹さんのお家にずっとお世話になるわけにもいかないので」

八神は深いため息をつく。

八神「そんなこと気にしなくてもいいのに。今は学業優先で、なんなら大学卒業までいてくれてもいいんだよ」

真白「そういうわけにはいきません。ただのバイトなのにそこまで甘えられません」

八神「ただのバイトじゃない。俺は君が大切なんだ。家探しはゆっくりでいいから、不必要な飲み会には参加しないでほしい」

真白「⋯⋯⋯⋯」

八神「真白ちゃん?」

真白「えっと⋯⋯はい、わかりました」

八神「うん」

真白の頭を優しくなでる八神。

真白「あの⋯⋯さっきは助けてくれてありがとうございました」

八神「それなら俺もありがとう。あいつの腕をひねり上げる真白ちゃんかっこよかったよ」

真白「そ、そのことは忘れてください!」


“俺は君が大切なんだ”という八神の言葉を思い出す真白。

◯屋上(回想シーン)

男の子『俺は君が大切だよ』

真白の両肩に手を置き、微笑む男の子の回想絵。

真白(一瞬、樹さんがあのときのお兄ちゃんと重なった。ひとりぼっちだった頃の私を救ってくれた初恋の男の子)

真白(あのときのお兄ちゃんが樹さんだった⋯⋯なんて、そんなことあるわけないよね)


真白は車内でぼーっと窓の外を眺めていた。