薔薇と初恋~10年間、ずっと守られていたなんて知りませんでした~


第2話「八神社長とふたりでお出かけ」


◯八神の家・真白の部屋(朝)


真白「ん、んんっ〜」

ベッドの上で寝返りを打ち、目を覚ます真白。

天井を見て、自分の家じゃないと気づき飛び起きた。

周りを見渡してハッとする。


真白「⋯⋯そうだ。アパートが燃えて、八神社長の家に来たんだった」


リビングに顔を出すと、塩田がテーブルを拭いていた。

真白「お、おはようございます」

塩田「おはようございます。真白さん」

塩田は真白に一礼すると、再びテーブルを拭き始めた。


次に洗面所へと向かった真白。 

顔を洗ったあと、寝癖をつけたまま歯を磨く。

そこへランニング帰りの八神が現れた。

スーツとは違い、体格の良かさがわかるスポーツウェア姿の八神。

八神「おはよう」

真白「お、おはようございます」

真白(姿が見えないから、完全に油断してた⋯⋯)

真白はささっと手ぐしで寝癖を直した。

八神「昨日はよく眠れた?」

真白「は、はい。ベッドがふかふかでマシュマロに包まれてるみたいでした」

八神はぽかんとした顔をする。

真白(わ、私ったら社長相手に何を言って⋯⋯)

真白は自分の発言が恥ずかしくなり、顔を赤くする。

八神「ふっ、そっか。それはよかった」

八神は真白が可愛くてたまらないといった様子で笑う。

真白(社長って、こんな風に笑うんだ)

八神の笑顔に思わず見惚れてしまう真白。


八神「今日は何か予定あるの?」

真白「あー⋯⋯、本当はバイトの予定だったんですけど、桃井さんが今日はお休みをくれて。火事の手続きや大学で必要なものを買いに出かけようかと思ってます」

真白(お金はなるべく使いたくないけど、必要最低限の服や日用品は買い揃えておかないと)


八神「真白ちゃんがよければ⋯⋯って、ごめん。桃井さんがそう呼んでたからつい」

真白「そ、そのままで大丈夫です!」

八神「そう? ⋯⋯じゃあ、名前で呼ばせてもらうね。俺のことも名前で呼んでもらえると嬉しいな。家でも社長だと落ち着かないし」

真白(社長を名前で⁉ いいのかな。私が社長を名前で呼ぶなんて⋯⋯。でも、社長の言うとおり家でも社長じゃ気が休まらないか)

真白「わかりました。⋯⋯い、樹さん」

八神「うん」

真白に名前を呼ばれて、優しい表情で返事をする八神。


八神「さっきの話に戻るけど、買い物なら一緒にどう? 俺も欲しいものがあって」

真白「はい」

八神「じゃあ、急いで準備するね」


◯車内

運転席に八神、助手席に真白が座る。

真白「こんな格好ですみません」

真白は昨日のTシャツとパンツ姿。

八神はセットアップで、清潔感あふれるコーデ。

真白はモデルのような八神の隣にいるのが申し訳なくて落ち込む。

真白(昨日の私、どうしてもっとマシな服を着ていてくれなかったの⋯⋯!)

八神「可愛いけど?」

八神は平然と口にした。

真白「えっ⋯⋯」

真白(そんなさらっと。大人ってすごい)



◯百貨店の1階フロア

八神「まずはどこに向かう?」

真白「服を⋯⋯」

真白(見たかったけど、ここに入ってるお店ってお高いんじゃ⋯⋯)

八神「服は6階だったかな。行こうか」

真白「は、はい」

真白(リーズナブルなものもある⋯⋯よね??)

不安そうな表情をする真白。


◯ハイブランドのお店


八神の姿が見えた瞬間、スタッフ総出で八神を迎える。

スタッフ「や、八神社長。いらっしゃいませ。本日はいかがなさいましたか?」

30代の男性スタッフが緊張した面持ちで八神に話しかける。


八神「今日はプライベートで彼女の服を選びに」

スタッフ「左様でございますか」

スタッフは真白を見て微笑む。

真白も笑顔を作った。


八神「真白ちゃん。好きに見てもいいよ」

真白(す、好きにって言われても、どれも高そうで手が伸びない)

真白「私、センスがなくて何を選べばいいのかさっぱり⋯⋯」

どうにかこの場を切り抜けようと無理に笑う真白。


八神「それなら俺が選んでもいいかな。これとか、これ。あと、これなんかどう?」

八神はパパっと服を手に取ると、真白に渡した。

スタッフ「ご試着室はこちらでございます」

あれよあれよと言う間に、試着室へと案内された真白。

エレガントな黒のワンピースをはじめ真白の手元には八神が選んだ服が数着ある。

試着途中、値札に書かれた0の数を見て驚く真白。

真白(私が住んでたアパートの家賃よりも高い。慎重に試着しないと)


試着を終えて、試着室から出る真白。

真白「き、着替え終わりました」

八神「ワンピースも似合うね」
 
真白「ありがとうございます。あの、」

八神「じゃあ、次はこれを」

真白「い、樹さん」

八神「真白ちゃんに似合うと思うんだ」

八神の有無を言わせぬ顔に服を受け取る真白。

それから数着、八神の選んだ服を試着する真白。

試着室から出るたびに褒めてくれる八神。

八神「どれも似合ってるよ。じゃあ、次は⋯⋯」

真白「あ、あの! その⋯⋯お洋服はとても素敵なんですけど、私にはちょっと、いやかなり手の届かないお店でして」

八神にだけ聞こえるよう、小声で話す真白。

八神「お金の心配ならいらないよ? 真白ちゃんへの贈り物だから」

八神は最初から自分が支払う気だった。

真白「こ、こんなお高い服いただけません!」

八神「⋯⋯わかった。それじゃあ真白ちゃんが普段行くお店を教えて?」



◯リーズナブルな服屋

八神「ここの服なら受け取ってくれるってことだよね?」

真白「えっ? そういう意味じゃ⋯⋯」


八神が真白をコーディネートして、服選びは終了。

真白(結局、財布は出させてもらえなかった)

両手に袋いっぱいの服を持つ真白。

真白「お金は必ずお返ししますので」

八神「真白ちゃんをうちに連れてきたのは俺なんだから気にしないで。必要なものは他にもあるから、次のお店に行こうか」

それから真白と八神は一緒にお箸や、靴などを選ぶ。


八神「とりあえずこんなものかな」

大量のショップの袋をトランクに積む八神。

真白「樹さん、お金はもちろん、この恩は一生かけてお返ししますので⋯⋯!」

八神「⋯⋯俺が真白にもらったものに比べればこんなものタダ当然だよ」

八神のつぶやきはトランクの閉まる音にかき消された。

真白「え?」

八神「⋯⋯あー、じゃあ早速ひとつ返してもらおうかな。お金以外で」

真白「はい!」

真白(お金以外ってなんだろう? 掃除? 雑用?)


八神「もっと気楽に話してくれると嬉しいな」

真白「え?」

八神「タメ口とまでは言わないからさ」

真白「そ、そんなの、お返しになりません」

八神「俺はそのほうが気が楽なんだけどだめ?」

真白「そ、そういう聞き方ずるいです」

八神「⋯⋯決まりってことで」

真白(今はまだ何もない私だけど、いつか必ず樹さんに恩返しがしたい)



◯八神の家

八神と一緒に購入したものを部屋へと運ぶ真白。

購入品を整理していると、見覚えのない箱があった。

開けてみると、最初のお店で試着したワンピースが入っている。

真白は慌ててリビングにいた八神に話しかけた。

真白「い、樹さん! あの服」

八神「ん?」

真白「最初のお店のワンピースがなぜか購入品の中に混ざってて⋯⋯」

八神「ああ、あれは真白ちゃんへの誕生日プレゼント」

真白「え?」

八神「昨日は何も用意できなかったから」

真白「誕生日プレゼントだとしても受け取れません」

八神「返されても困るな。俺は着れないし、返品はお店にも迷惑がかかるから」

真白(樹さんは、きっとそう言えば私が断れないのを知っているんだ)

真白「⋯⋯わかりました。大切に着ます」

八神「うん」

部屋に戻る直前、振り返る真白。

真白「次は私が樹さんにプレゼントしますから! あと、今日は一日ありがとうございました」

八神「こちらこそ。楽しい一日をありがとう」

◯真白の部屋(寝る前)

ベッドに寝転ぶ真白はワンピースの入った箱を見つめる。

真白「樹さんはどうして私にここまで優しくしてくれるんだろう。八神グループは家族だから?」


真白(本当にそれだけの理由?)

真白「あー、わからない」

枕に顔を埋めながら、足をバタバタとさせる真白。