――入学して私が学級委員に立候補したその日、私達二人は先生に頼まれて、翌日のオリエンテーションのためのプリントをホチキスで冊子にしていた。


「びっくりだね、初日にこんな地道な作業をするなんて」

「な。俺、こういうの苦手なんだよな」


そんな話をしながら、二人でパチパチと冊子を作成する。


「あのさ、覚えてる?」


深沢くんが急にそんな事を言った。

私は驚いて「何をですか?」と聞き返した。


「小学校の時、四年生までずっと同じクラスだった。親の都合で転校したけど」


深沢くんのまさかの発言に、驚きで私は椅子から転げ落ちそうになった。


「ごめん、全然覚えてない……です」

「だよな。覚えてね―のも無理ねーし」


その後、小学校の時の他愛もない話を少しして、盛り上がった。

翌日に、まだその時に仲が良かった純恋に聞いてみると、「覚えてなかったの!?」驚かれてしまったような気がする……。


「………な?あさ…な?朝比奈〜?」


少し前の思い出に浸っていると、ひょこりと深沢くんに顔を覗き込まれた。

健康的に焼けた野球部の肌がドアップで視界に飛び込んでくる。


「うわっ!」


私は驚きで、小さくそんな声を上げて少し後ろに飛び退いてしまった。


「話聞いてたか?」

「ご、ごめん……もう一回お願いしていいですか?」


私がそう言うと、深沢くんは大きなため息とともに呆れ顔をした。


「意見!お化け屋敷と迷路って書いて」


深沢くんはそういった後、「今のはちゃんと聞いてたか?」と私をからかうように言う。


「スミマセン…ちゃんと集中して聞いておきます」


私がしっかり返事すると、深沢くんはみんなの意見を聞くためにクラスメイトの方に向き直した。

私も黒板に書くために、深沢くんと反対を向く。

そして、チョークを持ち直して『お化け屋敷』『迷路』を横に並べて書き記した。