「さて、今日から文化祭の準備を始めていきます。まずは実行委員を決めます。立候補する人はいますか?他薦でも良いてすよ」


午後の授業が始まってすぐ、私達のクラスの担任は前に立ってそう言った。

教室内にざわめきが生まれる。
「やりたくな〜い」「誰かやらないの〜?」などと、クラスメイトの声があちこちに飛び交う。

そして、誰も手を挙げない……。

やっぱりこうなるよね……。

私は半ば呆れてため息を吐いた。


「立候補者がいないのであれば、学級委員さんに任せましょうか。どうですか?深沢(ふかさわ)くん、朝比奈さん」


クラスの喧騒の中、先生はさっきよりもひときわ大きな声でそう言う。

えぇっ!?私?

私は心の中で戸惑いながらも、少し離れた席に座る男子学級委員の深沢 湊都(みなと)くんをちらりと見る。

少しの沈黙のあと、深沢くんは口を開いた。


「誰もやらないんだったら、俺がやります」


深沢くんはそう返事すると、左斜め後ろ、私の方を見ながら「朝比奈はどうする?」と尋ねてきた。

クラスメイト全員の視線が、私に向く。

さっきまでうるさかった教室内は静まり返り、全員が私に注目していた。

わ、私ですか!深沢くん…。
流石で、全集中これだけ注目されるの苦手なのに……。

クラスメイトの突き刺さる鋭い視線。気まずい沈黙。

私はそれに耐えきれなくなって声を発した。


「私、やります」


勇気を振り絞って言うと、クラスのみんなはパチパチと拍手をして「ありがとう」「ナイス朝比奈!」などと声を上げる。

私はその緩まった空気に、思わずヘロヘロと机に突っ伏す。


「ナイス、陽葵」


右の席から純恋の優しい声が聞こえた。

机に顔をつけながらも、顔を純恋の方に向ける。