片思いのアリス

 わたしは中学3年生になった。

 部活を引っ張っていく立場になって、先輩としての指導と自分の練習で大忙し。
 
 佐紀は実力と真面目さが認められて部長になった。

 今もわたしは琴宮先生のアドバイスを実践してる。
 「なぜできないか。どうしたらできるようになるか」。

 クラリネットも3年目になって、ちょっとずつ成長できてる気がしてる。



 放課後、わたしは楽譜の束を持って、廊下を走っていた。
 後輩たちにはやく楽譜を配らなきゃ。

 「ぎゃっ!?」

 「廊下を走るな」とはよく言ったもので、わたしは思いっきり廊下で転んでしまった。

 そのとき。

 
 「大丈夫?」


 大慌てで散らばった楽譜を拾うわたしの頭上から少しぶっきらぼうな声がした。

 見上げると、おそらくサッカー部のユニフォームを着た男子。

 ……同じクラスの男子だということはわかるんだけど、まだクラス替えをしたばっかりで、名前が思い出せない。

 短く切った髪と、キリッとしたするどい目。だけどどこか優しそう。

 「手伝うよ」
 「あ、ありがとう……!」

 2人で拾うと、あっという間に楽譜は集まった。

 「助かったよ。廊下で転んじゃって」
 「うん、一部始終見てた。『廊下を走るな』とはよく言ったものだよな」
 「あ! わたしも同じこと思ってた!」
 
 わたしたちはふふ、と少しだけ笑った。

 「オレ、麻倉大翔(あさくらひろと)。同じクラスだよな?」
 「わたし、有栖ゆい。やっぱりそうだよね?」

 はい、と麻倉くんはわたしに楽譜を渡した。

 「有栖は吹奏楽部なんだな。オレ、サッカー部」
 「やっぱり。ユニフォームでわかったよ」
 「あ、それもそうか」

 ふふ、とまたわたしたちは笑った。

 なんだかわたしたち、気が合いそう――わたしは直感的にそう思った。

 「じゃあオレ、部活に行かなきゃ。お互い頑張ろうぜ。じゃ、また教室で」
 「うん!」

 わたしは麻倉くんの背中を見送った。