片思いのアリス

 12月の水曜日の朝。
 来週はクリスマス。そして終業式。

 わたしはいつもどおり身だしなみをチェックしていた。
 よし、大丈夫。

 「行ってきまーす!」

 家を出ると、既に佐紀が待っている。

 「言うんだよね? 今日。告白のこと」

 挨拶もせずに、佐紀が言った。

 「うん、言う。昼休みに」

 わたしも挨拶をしないで答えた。

 登校中、わたしたちは言葉がいつもより少なかった。

 きっと佐紀はわたしが緊張しているのを察して、あまり喋らないようにしてくれていたんだと思う。

 わたしも昼休みのことばかり考えて、全然雑談らしい雑談ができなかった。

 そしてほとんどわたしたちは言葉を交わさずに、学校に着いてしまった。

 それからの授業も、まったく頭に入らなかった。
 頭の中は琴宮先生でいっぱいだった。

 まったく身にならない授業が終わって、あっという間にやってきた昼休み。

 わたしは、佐紀の方を見た。

 「頑張って」

 佐紀が微笑んで言った。
 わたしは頷いた。

 教室から職員室に向かう間も、心臓がバクバクしていた。

 別に今日告白するわけじゃないのに。

 でも、「屋上に来てください」だなんて、そういうことだよね。

 そう考えているうちに、職員室に着いた。

 「1年2組の有栖です」

 職員室に入るには、クラスと名前を言うのがルールなんだ。

 琴宮先生……いた。

 わたしは琴宮先生のところに駆け寄っていく。

 琴宮先生はわたしに気が付くと、笑顔でわたしを出迎えた。

 「こんにちは。今日もわからないところがあるの?」
 「いえ、あの、今日はお願いがあってきたんです」

 そのとき一瞬、琴宮先生が怪訝そうな顔をしたのをわたしは見逃さなかった。
 きっと彼女のことだと思ったんだ。

 「来週の水曜日。終業式の日、放課後、屋上で待ってます。来てくれますか?」

 ――言っちゃった。

 わたしは心臓のバクバクが止まらない。
 きっと顔も真っ赤になっていると思う。

 琴宮先生はじっとわたしを見つめていた。

 そしてにこりと笑った。

 「うん、わかった。放課後に屋上だね。すぐに行くよ」

 琴宮先生があまりにもあっさり承諾したので、わたしは少し拍子抜けしてしまった。

 「ありがとうございます。待ってます。じゃあ、今日はこれで失礼します」
 「うん。来てくれてありがとう」

 わたしはぺこりと礼をして、職員室を出た。

 すると驚くことに、職員室の扉の先に佐紀が立っていた。

 「佐紀!?」
 「心配で来ちゃった。言えた? 先生は?」
 「うん。先生も来てくれるって」
 「良かったじゃん!」

 そう言って佐紀はわたしを抱きしめた。

 こんな佐紀は初めてで、わたしは目をぱちくりさせた。

 「佐紀、どうしたの!? キャラ違くない!?」
 「だって、親友の一大事だもん。これくらいさせてよ」
 「ふふ、佐紀ったらクールなのに、意外と情に厚いんだから」
 「意外は余計」

 わたしたちは大きな声で笑い合った。

 「こらー! 職員室前は静かに!」

 先生に怒られちゃった。

 「すいませーん!」

 わたしたちは笑顔で教室に戻った。