その日の夜、わたしは自分の部屋でベッドに横になっていた。
まくらカバーは少し濡れている。
家に帰ってきて1人になったとたん、涙が止まらなくなっちゃったんだ。
悲しい。とにかく悲しい。
あんなに距離を縮められたと思っていた相手に、彼女のことも詳しく教えてもらえないなんて。
そのとき、ブーッ、ブーッとスマホのバイブ音が鳴った。
わたしは驚いてスマホを見た。佐紀から電話がかかってきている。
「さ、佐紀!?」
『うわっ、鼻声! 泣いてたの!?』
佐紀は自分から電話をかけてきたくせに、びっくりしたように言った。
『いや、部活帰り、すごく落ち込んでたでしょ? だから励ましの電話でもしてあげようかと思ったんだけど……。思った以上に落ち込んでるみたいだね』
「あはは、さすが親友。ご名答」
わたしは鼻声で笑った。
『……よかったら、くわしく教えてくれない? 琴宮先生と何があったのか。帰り道じゃ黙りっきりだったでしょ』
「うん」
わたしは職員室での出来事を話した。
『……なるほどね。琴宮先生は何も教えてくれなかったと。それでそんなに落ち込んでたんだ』
「……わたし、もっと琴宮先生と近づけてると思ってたの。それこそ元カノのことを話してくれるくらい」
すると、佐紀は少し考えるように間を空けて言った。
『それは人によるよ。それに、わたしたちは生徒で、琴宮先生は先生でしょ。先生が生徒に元カノの話なんてなかなかしないでしょ。しかも職員室で』
「そっか……」
佐紀に落ち着いた声で言われて、少しわたしの気持ちは落ち着いた。
『わたしが言いたいのは、これはゆいと琴宮先生の距離がどうとかそういう話じゃなくて、立場の問題だってこと』
「立場の問題……」
わたしは少し考えた。
じゃあ、立場の問題をなんとかするにはどうしたらいいだろう?
……そんなこと、できないのかな。でも、あきらめきれないよ。
『わたし、そこまでゆいが琴宮先生に本気だなんてちゃんと考えてなかったよ。元カノのこと教えてくれないくらいで泣いちゃうなんてさ。大体……』
わたしは佐紀の言葉を遮って言った。
「……ねえ、じゃあ立場の問題をなんとかするにはどうしたらいいと思う?」
『はあ!?』
佐紀は心底驚いたように大きな声を上げた。
『立場なんて変わらないよ。だって生徒が急に先生になったりしないでしょ?』
「そっか、ムリかあ……」
わかってたけど、立場なんて変わらない、そう言われて、また涙がこぼれてきた。
わたしはぐす、ぐす、と鼻をすする。
『また泣いてんの!?』
佐紀は半ば呆れたようにまた大きな声を上げた。
『うーん……』
佐紀は何か考えているみたい。
わたしは涙を止めるのに必死だった。
『……じゃあもうさ、こうなったらとことん現実思い知っちゃえば?』
「現実を、思い知る?」
『告白するの! 琴宮先生に!』
「こ、告白!?」
わたしの涙はあっという間に引っ込んだ。
佐紀の言葉が衝撃的すぎて。
『妄想してなかったの? 告白のこと。妄想家のゆいが』
「そ、そこまで現実的なことは……」
具体的な告白なんて、考えたことなかった。
考えていたのは、琴宮先生とラーメン食べるとか、デートするとか、そんなことばっかりで……。
『じゃあ、決まり! ゆい、もうここで決着着けないと、ずっとうじうじするでしょ。琴宮先生に告白して、現実を思い知るの!』
「さっきから『現実を思い知る』って言ってるけどさ、それってどういうこと?」
『……それは、わかんないけど』
佐紀は言いにくそうに答えた。
……なんとなく、言いたいことはわかる。……わかりたくないけど。
でも。
もし、琴宮先生に告白して、恋が実ったら?
わたしと琴宮先生は、秘密の恋人関係になるんだ。
それってすごく刺激的かも。
土日にこっそり出かけて、水族館や映画館に行くの。
『おーい、聞いてる?』
「へっ!?」
『あ、また妄想してたでしょ』
「へへ……」
わたしは恥ずかしくて笑った。
泣いたり妄想したり、わたしったら感情がジェットコースターみたい。
『じゃあ、いつ告白するのってさっき聞いたんだけど。ゆいが妄想中に』
「え、えーっと……」
どうしよう。
せっかくだったら、印象的な日にしたいな。
――そうだ、クリスマスなんてどう?
それまでに琴宮先生に猛アタックするの。
「クリスマスに、告白する。ちょうど終業式だし」
『……うん。良いんじゃない?』
電話口の声から、佐紀が微笑む雰囲気が伝わった。
「クリスマスまで頑張るよ。琴宮先生ともっと仲良くなれるように」
それからも佐紀とは、何でもない話をした。
この前買ったマスコットの話とか、クレープまた食べに行きたいね、とか。
『じゃあ、もう遅いし切るね。また明日』
「うん、また明日」
――望みは薄いかもしれない。
でも、わたしは琴宮先生に思いを伝えるんだ。
まくらカバーは少し濡れている。
家に帰ってきて1人になったとたん、涙が止まらなくなっちゃったんだ。
悲しい。とにかく悲しい。
あんなに距離を縮められたと思っていた相手に、彼女のことも詳しく教えてもらえないなんて。
そのとき、ブーッ、ブーッとスマホのバイブ音が鳴った。
わたしは驚いてスマホを見た。佐紀から電話がかかってきている。
「さ、佐紀!?」
『うわっ、鼻声! 泣いてたの!?』
佐紀は自分から電話をかけてきたくせに、びっくりしたように言った。
『いや、部活帰り、すごく落ち込んでたでしょ? だから励ましの電話でもしてあげようかと思ったんだけど……。思った以上に落ち込んでるみたいだね』
「あはは、さすが親友。ご名答」
わたしは鼻声で笑った。
『……よかったら、くわしく教えてくれない? 琴宮先生と何があったのか。帰り道じゃ黙りっきりだったでしょ』
「うん」
わたしは職員室での出来事を話した。
『……なるほどね。琴宮先生は何も教えてくれなかったと。それでそんなに落ち込んでたんだ』
「……わたし、もっと琴宮先生と近づけてると思ってたの。それこそ元カノのことを話してくれるくらい」
すると、佐紀は少し考えるように間を空けて言った。
『それは人によるよ。それに、わたしたちは生徒で、琴宮先生は先生でしょ。先生が生徒に元カノの話なんてなかなかしないでしょ。しかも職員室で』
「そっか……」
佐紀に落ち着いた声で言われて、少しわたしの気持ちは落ち着いた。
『わたしが言いたいのは、これはゆいと琴宮先生の距離がどうとかそういう話じゃなくて、立場の問題だってこと』
「立場の問題……」
わたしは少し考えた。
じゃあ、立場の問題をなんとかするにはどうしたらいいだろう?
……そんなこと、できないのかな。でも、あきらめきれないよ。
『わたし、そこまでゆいが琴宮先生に本気だなんてちゃんと考えてなかったよ。元カノのこと教えてくれないくらいで泣いちゃうなんてさ。大体……』
わたしは佐紀の言葉を遮って言った。
「……ねえ、じゃあ立場の問題をなんとかするにはどうしたらいいと思う?」
『はあ!?』
佐紀は心底驚いたように大きな声を上げた。
『立場なんて変わらないよ。だって生徒が急に先生になったりしないでしょ?』
「そっか、ムリかあ……」
わかってたけど、立場なんて変わらない、そう言われて、また涙がこぼれてきた。
わたしはぐす、ぐす、と鼻をすする。
『また泣いてんの!?』
佐紀は半ば呆れたようにまた大きな声を上げた。
『うーん……』
佐紀は何か考えているみたい。
わたしは涙を止めるのに必死だった。
『……じゃあもうさ、こうなったらとことん現実思い知っちゃえば?』
「現実を、思い知る?」
『告白するの! 琴宮先生に!』
「こ、告白!?」
わたしの涙はあっという間に引っ込んだ。
佐紀の言葉が衝撃的すぎて。
『妄想してなかったの? 告白のこと。妄想家のゆいが』
「そ、そこまで現実的なことは……」
具体的な告白なんて、考えたことなかった。
考えていたのは、琴宮先生とラーメン食べるとか、デートするとか、そんなことばっかりで……。
『じゃあ、決まり! ゆい、もうここで決着着けないと、ずっとうじうじするでしょ。琴宮先生に告白して、現実を思い知るの!』
「さっきから『現実を思い知る』って言ってるけどさ、それってどういうこと?」
『……それは、わかんないけど』
佐紀は言いにくそうに答えた。
……なんとなく、言いたいことはわかる。……わかりたくないけど。
でも。
もし、琴宮先生に告白して、恋が実ったら?
わたしと琴宮先生は、秘密の恋人関係になるんだ。
それってすごく刺激的かも。
土日にこっそり出かけて、水族館や映画館に行くの。
『おーい、聞いてる?』
「へっ!?」
『あ、また妄想してたでしょ』
「へへ……」
わたしは恥ずかしくて笑った。
泣いたり妄想したり、わたしったら感情がジェットコースターみたい。
『じゃあ、いつ告白するのってさっき聞いたんだけど。ゆいが妄想中に』
「え、えーっと……」
どうしよう。
せっかくだったら、印象的な日にしたいな。
――そうだ、クリスマスなんてどう?
それまでに琴宮先生に猛アタックするの。
「クリスマスに、告白する。ちょうど終業式だし」
『……うん。良いんじゃない?』
電話口の声から、佐紀が微笑む雰囲気が伝わった。
「クリスマスまで頑張るよ。琴宮先生ともっと仲良くなれるように」
それからも佐紀とは、何でもない話をした。
この前買ったマスコットの話とか、クレープまた食べに行きたいね、とか。
『じゃあ、もう遅いし切るね。また明日』
「うん、また明日」
――望みは薄いかもしれない。
でも、わたしは琴宮先生に思いを伝えるんだ。


