片思いのアリス

 まだまだ安心していられない。
 最後はクラリネットパートのアンサンブル。

 前にも説明したけど、クラリネットパートのアンサンブルでやるのはみんなが知ってるアイドルのポップス曲。
 みんなが知ってる分、ミスしたらすぐにわかるっていう怖さもある。

 待合室で待っていると、進行係の先輩が声を上げた。
 
 「クラリネットパートのみなさーん! そろそろ順番でーす!」
 「はい!」
 
 わたしたちは返事をして、舞台袖に向かった。

 「みんな、頑張ろうね!」

 山内先輩が小さな声でパートメンバーに声をかけた。

 「はい!」

 わたしたちも小さく返事をした。

 順番が来て、わたしたちは舞台に上がった。

 また拍手で迎えられる。

 演奏が始まると、アンサンブルコンサートを聞きに来ていた人たちの顔が一気に明るくなるのがわかった。
 知っている曲だから、嬉しい気持ちになったんだ。

 わたしたちはまるで原曲のアイドルになったつもりで、ノリノリで演奏した。

 結果から言うと、クラリネットパートのアンサンブルも大成功だった。
 リハーサルのときみたいに、お客さんたちはみんな手拍子で盛り上げてくれた。

 舞台袖に戻ると、山内先輩がわたしたちに言った。

 「みんな、短い期間だったけど、ここまで完成度を高めてくれて、ありがとう! わたしたち、よくやったね!」
 「はい!」

 わたしたちはみんな笑顔で返事をした。

 それからも、いくつものアンサンブル団体が演奏をして、アンサンブルコンサートは大成功に終わった。

 学ぶことがたくさんあった。コンクールや文化祭と同じくらい。もしかしたらもっと。

 わたし、もっとうまくなりたいな。
 うまくなって、いろんな表現ができるようになりたい。
 
 「じゃあね、有栖さん!」

 アンサンブルコンサートが終わって、解散したあと、わたしは琴宮先生に声をかけられた。

 「はい! また水曜日に!」

 琴宮先生は小さく手を振ると、わたしたちとは反対方向に帰って行った。

 「琴宮先生とずいぶん仲良くなったんじゃない?」

 一緒に帰っていた佐紀に言われた。

 「だいぶ仲、深まっちゃったかもね!」
 「はいはい」

 佐紀から言ってきたくせに、いつもこう。すぐ興味を失くすんだから。

 わたしは正直ウキウキだった。
 アンサンブルは2つとも成功したし、琴宮先生とは仲を深められたし。

 ――だから、あんなことが起こるなんて、思いもしなかったんだ……。