片思いのアリス

 公民館の温かみのあるホールに入場すると、拍手で迎えられた。
 客席には地域の子供たちやその親御さん、おじいさんやおばあさんもいる。
 
 曲目紹介が終わり、早速演奏が始まる。

 最初のクラリネットのソロ。
 
 ――起きて、もう朝だよ。
 ウサギが目をこすって顔をあげる。

 そしてバイオリンが入る。

 ――小鳥たちが歌うように太陽が昇るのを喜ぶ。

 曲が盛り上がって来ると、動物たちが踊りだす。
 手をつないで、今日も朝が来た、楽しい1日が始まる、と喜びの踊りを踊るの。

 リスたちも木の上で、踊るウサギたちを見て楽しそうに笑う。

 わたしは音程とか、高音がどうとか、まったく考えていなかった。

 ただ森の音楽家として、琴宮先生と顔を合わせて、笑顔でクラリネットを吹いていた。

 そうすると不思議なことに、リハーサルのようなミスはしなかった。

 曲が終わると、大きな拍手をわたしたちは受けた。

 「うまくいったね」

 演奏が終わり、舞台袖に戻ると、琴宮先生が言った。

 「はい! 今までで一番良かったと思います!」
 「僕もそう思うよ」

 琴宮先生がバイオリンを舞台袖の机に置いて、急に右手を差しだした。

 わたしは最初「え?」と思ったけど、すぐに意図がわかった。

 わたしも右手を差しだし、握手した。

 「有栖さん、ほんとうに良く頑張ったね。僕の失言にも負けずに、最後まで楽しく吹けたね」
 「今日の演奏、すごく楽しかったです! ありがとうございました!」

 わたしはおじぎをした。
 琴宮先生も小さく会釈をした。