片思いのアリス

 あっという間に授業は終わり、部活動の時間になった。

 わたしはまるでコンクール前みたいに緊張しながら、クラリネットパートの合わせの教室に向かっていた。

 大丈夫、大丈夫、今度はうまくやれる。
 だってあんなに練習して、アンサンブルのことも考えたんだから……!

 新緑学園中等部吹奏楽部のクラリネットパートは、中1から中3まで合わせて12人。つまり各学年4人ずつ。

 12人も合わされば、結構な迫力のある演奏になる。
 それだけ、自分の音が隠れるということでもある。

 それでも山内先輩に注意されちゃうんだから、山内先輩はよく聞いてるよね。

 「じゃあ、メトロノームなしでいきまーす」
 「はい!」

 山内先輩が言った。
 みんなで返事をする。

 山内先輩の合図で、演奏は始まった。

 わたしは楽譜からできるだけ目を離して、山内先輩を見る。
 山内先輩は歌うように体を動かして、私たちの演奏を引っ張ってくれている。

 こんなこと、この前は気が付かなかった。
 わたし、全然周りが見えていなかったんだ。

 ふと、山内先輩と目が合った。
 少し微笑まれたような気がした。

 クラリネットパートは、基本的に吹奏楽ではファースト、セカンド、サードと3つのパートに分かれている。
 主にファーストが高音を担当し、サードが低音を担当する。

 わたしは今回はサードのパートなんだ。

 ファーストのパートを吹くクラリネットの音が鳴り響く。
 
 楽しい曲調が続き、そのまま曲は終わった。

 どうかな!?
 結構、前より成長したと思うんだけど……!
 
 「みんな、前よりも仕上がってるね!」

 山内先輩は嬉しそうに言った。

 「特にファースト。高音良かったよ!」

 それ以降も山内先輩は次々に注意事項を言っていく。
 ここの音程が合ってなかったとか、ここはもっと盛り上げようとか……。

 それからも何度も色んな箇所を合わせて、音楽室に戻る時間になった。
 
 「あ、ゆいちゃん」
 
 みんなが楽器を持って教室を出て行くとき、山内先輩がわたしに声をかけた。

 わたしはびくっと体を強張らせた。
 また何か言われちゃうのかな……。

 「この前は、ごめん。ちょっとアンサンブルコンサートに熱が入り過ぎて、酷いこと言っちゃった」
 「え……?」

 わたしはぽかんと口を開けた。

 「今日、すごく良かったよ。ちゃんと周りのことも見れてたし。目合ったの、わかった?」
 「はい……!」

 わたしはほっとして、またクラリネットを落としそうになった。
 あわてて両手に力を入れる。

 「アンサンブルコンサートまであと半月もない。お互い、頑張ろうね。琴宮先生とのアンサンブルも、楽しみにしてるよ」
 「はい!」

 わたしは満面の笑みで答えた。
 
 良かった……本当に良かった!
 クラリネットパートのアンサンブルは、うまくいきそう。

 次は、琴宮先生とのアンサンブルだけど……。
 うまく、いくかな……?