片思いのアリス

 その週の金曜日。

 「ゆい、楽器持って帰るの?」
 「……うん」

 部活の帰り、佐紀はわたしに声をかけた。

 「アンサンブル、やばいの。クラリネットパートの方も、琴宮先生との方も、ダメダメで。だからわたし、土日も練習することにしたんだ、カラオケで」
 「へー、頑張るじゃん」
 「うわっ、他人ごと」

 わたしはクラリネットの入ったケースを抱えながらツッコミを入れた。

 琴宮先生に言われたアドバイス。
 わたしは最初に職員室で言った。動物たちが踊ってるみたいって。
 だから、もっと歌うように楽しく吹いてって言われたんだ。

 楽譜にかじりついてる状態からだから今のわたしにはかなり難題なんだけど、言われたからにはやらなきゃ。

 そしてクラリネットパートのアンサンブルもある。
 そっちも練習がまだまだ足りない。

 だからわたしは土日もカラオケで練習することにしたんだ。

 「佐紀の方は調子どう?」
 「まあまあかな。もう少しみんなで目を見て吹ければ良いんだけど」

 やっぱり顔を合わせて目を見るのって大事なんだ。
 それができるように、楽譜を覚えなきゃダメかなあ……。

 佐紀は上手だから、アンサンブルにひっぱりだこ。
 それを涼しい顔でこなして、「まあまあかな」なんて言うんだから、恐ろしいやつ……。



 その週の土日は、とにかく猛特訓の週末となった。

 朝早くカラオケに行っては、部屋にこもって練習、練習、練習。

 何度も何度も吹いてると、嫌でも楽譜は覚えてきた。

 『琴宮先生とアンサンブルできて嬉しいのはわかるけどさ。もう少しクラリネットの方も頑張ってくれない?』

 先輩の言葉が脳裏によみがえる。
 うう、最早トラウマになってる……。

 次の合わせでは褒められるくらいにならないと。
 わたしはクラリネットパートのアンサンブルも琴宮先生とのアンサンブルと同じくらい練習した。

 クラリネットパートのアンサンブルでやる曲は、みんなが知ってるアイドルのポップス曲。
 踊りたくなる、っていう点では琴宮先生のアンサンブルとも共通してるかも。

 聞いている人が楽しくて踊りたくなるくらいに、息の合った楽しい演奏を届けよう。
 わたしはそれを目標にかかげることにした。

 そのためにかかせないのは、まずは楽譜通りに演奏できることと、楽譜にかじりつかず、他の演奏者とアイコンタクトをとりながら『一緒に』演奏すること。
 そうやって考えるのは簡単なんだけど、実際にやるのは難しい。

 指揮者がいるわけじゃないから、タイミングも自分たちで合わせないといけない。
 『ここで一緒に吹こうね』って目と目、そして息づかいで合図し合わないといけない。

 アンサンブル、奥が深すぎる……!

 わたしは何度も頭を抱えたくなりつつも、とにかく練習、練習、練習の週末を過ごした。