片思いのアリス

 9月中旬の水曜日。

 公民館でのアンサンブルコンサートは10月の中旬。
 つまりあと1ヶ月しかない。

 わたしと琴宮先生は、昼休みにアンサンブルコンサートの作戦会議をしていた。
 作戦会議ができるだけで、なんだか幸せ……。

 「この曲なんて良いと思うんだ。初心者には少し難しいけど、あくまで公民館のコンサートだし。完璧を求めなくてもいいよ」
 「いや、やるからにはがんばります!」
 「あはは、やる気十分だね」

 琴宮先生はそう言って笑うと、自分のスマホに有線イヤホンを差した。

 こ、これってもしかして、イヤホンを半分ずつ聞き合うやつでは……!?

 想像通り、琴宮先生はイヤホンの片方をわたしに渡した。

 「ほら、聞いてみて。どうかな?」
 「は、はい!」

 そんな、ナチュラルに!?
 これが大人の余裕ってやつ!?

 い、いや、これは真面目な作戦会議なんだから。
 わたしは浮かれた自分にそう言い聞かせて、イヤホンを片耳に入れた。

 「じゃあ、曲流すね」

 曲が流れ始めた。
 もちろんバイオリンとクラリネットの二重奏曲。バイオリンとクラリネットの響きが心地いい。
 ……すごく良い曲。

 で、でも、これ、わたし吹けるのかな……!?

 「どうだった?」

 曲が終わると、琴宮先生はわたしに微笑みかけた。

 「すごく落ち着く良い曲でした」
 「もっと、浮かんだ情景とかないかな?」

 漠然と「穏やかで良い曲だな」とは思ったけど、そう言われると難しい。
 うーん……。

 「朝、森で太陽が昇って、木々に光が当たっていくんです。そして、曲が盛り上がるところは、森の動物たちが踊っているようでした」
 「おお! すごい! それは良いイメージだね」
 「ほんとですか!」

 やっぱり上手な人のクラリネットってはまるで木が響くような優しい音がする。だから森を連想させるのかな。
 そしてバイオリンの響きは、小鳥のさえずりのよう。
 だから、森の動物たちが踊っているような風景が浮かんだのかな。

 「じゃあ、僕らのこの曲の路線はそれで行こう。朝の森にゆっくり太陽が昇って行って、そして踊る動物たち。うん、良いテーマだと思う。……それで、これが楽譜なんだけど……」

 わたしは琴宮先生から楽譜と音源のCDを渡されて、げ、と思った。
 やっぱり連符がある。連符、すっかりこの間のコンクールで嫌になっちゃったよ。

 「これ、わたし吹けますか……?」
 「大丈夫! 僕もしっかりサポートするから。一緒にがんばろう!」

 そう言われると、がんばろうという気持ちになってしまう。
 
 よーし、こうなったらヤケだ! できるところまでやってやるぞ!