片思いのアリス

 1週間が経った。
 今日は日曜日。文化祭も2日目。

 吹奏楽部は午前に体育館でコンサートを行うことになっている。
 
 わたしたちは音楽室で準備に追われていた。

 「打楽器の移動手伝ってー!」
 「はーい!」

 部員たちの声が飛び交う。
 
 本番が近づいて、コンクールほどじゃないけど、緊張してくる。
 でも、決めたんだ。文化祭は楽しむって。

 「用がない子は、体育館向かってー!」
 「はーい!」

 特に仕事がなかったわたしは、体育館に向かうことにした。
 
 音楽室は4階で、体育館は1階にある。
 わたしは急いで楽器と楽譜、譜面台を持って階段を急いで駆け下りた。

 体育館では、コンサートの準備が慌ただしく行われていた。

 椅子と譜面台を並べて、簡単な装飾もある。
 お客さんが入って来る時間までに、全部完成させなきゃ。

 「ゆいちゃん、椅子並べるの手伝ってー!」
 「はい!」

 先輩に声をかけられて、わたしは先輩の方へ走って行った。

 しばらく準備に走り回って、ついに開場時間になった。
 わたしたち部員は体育館の舞台袖に移動する。

 「みんな、今日は頑張りましょう!」

 小さな声で、部長の先輩が声をかけた。

 「はい!」

 多分客席にも聞こえちゃってると思うけど、わたしたちは返事をした。

 そして開演時間。
 
 体育館が暗くなり、わたしたちが入場する。

 曲はコンクールとは打って変わって、みんなが知ってるポップスがメイン。
 みんな楽しんでくれてるかな。

 ……そう、今日はわたしたちもお客さんも楽しむ日!
 わたしのクラリネットの音も心なしか弾む。

 数曲演奏して、途中にMCを挟んだりして、コンサートは終わった。
 
 あー! 楽しかった!

 コンクールが終わってから大急ぎで練習したにしては、うまくいったんじゃないかな。

 それに、わたしが目標にしてた「楽しむ」を無事達成できた。
 
 技術ももちろん大事だけど、楽しむことも大事だって改めて思った。

 だって現に、楽しんで演奏することで、わたしのクラリネットの音だって弾んできっと良くなったわけだし。

 ――そうだ。わたしたちに足りなかったことって……?

 わたしはふと思った。
 
 わたしたちが金賞を獲れなかった理由。
 ……もちろん、それだけじゃないとはわかってるけど。

 それって、もしかして……。

 「楽しむこと、じゃないかな」

 片付けをしながら、わたしは佐紀にぼそりと呟いた。

 「なにが?」

 佐紀はぽかんとした顔で手を止めてこたえた。

 「コンクールの、『反省』。それだけじゃないとは、わかってるけど」

 佐紀はしばらく考えたあと、また手を動かしながら言った。

 「……たしかに、わたし、金賞のことばっかり考えてた。楽しむことなんて、考えてなかったかも」
 「やっぱり、そうだよね? わたしも、金賞獲ることしか考えてなかったよ」

 わたしは、1つの答えに辿り着いたような、不思議な気持ちになった。

 「来年はさ、それも意識してやってみない?『演奏を楽しむ』ってこと」
 「ふふ。なんか最近、ゆいに教えられてばっかり。初心者のくせに」

 佐紀はいじわるな笑いをしながら言った。

 「もー!」
 「言っとくけど、楽器歴はわたしの方が上なんだからね。今日だって、ゆいが音外したのわかってるんだから」
 「うるさいなー!」

 あはははは、とわたしたちは笑い合った。

 「ちょっとそこ! 真面目に片付けて!」
 「す、すいません!」

 先輩に怒られてしまった。

 「ゆいのせいだからね!」
 「佐紀だって色々言ってたじゃん!」

 小さな声でわたしたちは言い合いを続けながら、音楽室に戻った。

 「それじゃあみんな、コンサートお疲れ様でした! このあとも文化祭楽しみましょう!」
 「はーい!」

 みんなが音楽室に戻ったあと、部長の先輩がみんなに言った。

 これで文化祭のコンサートは終わり。
 ……琴宮先生、聞きに来てくれてたかな……?

 「ゆい、この後一緒に文化祭回るでしょ?」

 わたしがぼーっとしていると、佐紀がわたしに声をかけた。

 「あ、もちろん!」
 「もしかして、また琴宮先生のこと考えてた?」

 ぎくっ!
 佐紀ってわたしの心読めるのかな。

 「今日のコンサート、聞きに来てくれたかなーって……」
 「来るって言ってたんでしょ? それより、3組の縁日行こうよ。景品無くなっちゃうよ」

 佐紀は琴宮先生より文化祭に夢中みたい。
 ……まあ、コンサートの感想は、また次の水曜日に聞けばいっか。

 「うん、行こう!」

 わたしたちは音楽室を出て、教室へ向かった。