片思いのアリス

 あっという間に日々は過ぎて、8月になった。

 わたしはほぼ毎日部活動でしごかれて、毎週水曜日に癒される日々を送っていた。

 ――そしてついにコンクール前日。
 最後の合奏練習が行われていた。今日は最終調整の日。

 「ここはもっと金管の音量落として。木管が聞こえるようにして」

 飯田先生の顔にも緊張の色が見える。

 「じゃあ、今日の練習はここまでにしましょう。みなさん、今日はゆっくり休んで、明日に備えるように」
 「はい!」

 コンクール前最後の練習が終わった。
 時間はまだ昼の3時。うう、これから緊張を抱えたままどう過ごせば良いんだろう……。

 「ついに明日だね」

 楽器を片付けていると、佐紀がやって来て言った。

 「うん。頑張ろうね」
 「お互い、全力を尽くそう」
 「そうだね」

 いつも余裕そうな佐紀だけど、今日は緊張しているのを感じる。

 「明日は7時集合ですから、夜更かししないようにねー!」

 飯田先生が叫んでいるのが聞こえる。
 
 明日はコンクール会場に行く前に、1回学校に集まるんだ。
 間違っても寝坊しないように、本当に今日は早く寝ないと。

 「帰ろう、佐紀」
 「うん」

 わたしたちは音楽室を出て、そのまま学校を出た。

 「コンクールに出られなかった1年生の分も、頑張ろうね」

 住宅地を歩いていると、佐紀が急に真剣な面持ちで言った。

 そうだ。わたし、自分のことで精一杯だったけど、わたしたちの吹奏楽部の1年生は20人。そのうちコンクールに出られるのは半分の10人にも満たない。
 その子たちの気持ちも考えたら、私たちがその子たちの分も頑張らないと。

 「そうだね」

 わたしも真剣な顔で言った。

 「それに、3年生の先輩にとっては最後のコンクール。絶対わたしたちが足を引っ張らないようにしないと」

 佐紀はまた真剣な面持ちで言う。
 佐紀は、色んな人の気持ちを考えているんだなあ。

 「そっか、3年生の先輩はこれで最後か……。頑張らないとね」
 「うん」

 佐紀は、自分以外の色んな人の気持ちを背負ってコンクールに臨んでるんだ。
 わたし、自分のことと琴宮先生のことしか考えてなかった。

 自分の未熟さを、少し反省した。

 そしてコンクールについてぽつぽつと話していると、わたしの家の前に着いた。

 「じゃあ、また明日。頑張ろうね」

 佐紀が少し微笑んで言った。

 「うん。頑張ろう」

 わたしは佐紀に手を振って、自分の家の扉の鍵を開けて入っていった。