片思いのアリス

 次の日、水曜日の部活後。

 待ちに待った夏期講習!

 わたしはるんるんで1年2組の教室に行って、ガラガラと扉を開けた。

 そこには琴宮先生が1人で佇んでるの。
 そしてわたしに言うんだ。『部活、お疲れ様』って。
 
 ――ところが現実では、わたしはあんぐりと口を開けていた。

 なぜなら、わたし以外に20人くらいが、席に座っていたから。

 あれ? 夏期講習って、わたしと琴宮先生だけじゃないの?
 
 すると、後ろから佐紀の声が聞こえた。

 「あれ、まだ琴宮先生来てないんだ」
 「佐紀まで!?」

 わたしが大きな声を上げると、佐紀は不思議そうにわたしを見た。

 「わたしも夏期講習受けるんだよ」
 「夏期講習って、わたしと琴宮先生だけの秘密の会じゃなかったの!?」

 佐紀は大きなため息をついた。

 「廊下の張り紙、見てなかったの? 琴宮先生が、夏休みに夏期講習やりますってやつ。中学1年生でやる気ある人は自由参加って」
 「えーーー!?」

 わたしはその場で手をついて倒れこみたいほどショックを受けた。
 ずっと琴宮先生と二人きりだと思ってたのに。そのため……だけじゃないけど、部活も頑張ってきたのに。

 「今回は残念でした。ほら、席無くなっちゃうよ」
 「はあ……」

 わたしは佐紀に手をひかれて席についた。
 
 まあ、琴宮先生にはいつも個人的に勉強を教えてもらってるだけで、琴宮先生のする授業は受けたことなかったし?
 そうポジティブに考えよう……。

 わたしが席につこうとすると、琴宮先生が教室に入ってきた。
 琴宮先生はわたしを見つけて、こちらにやって来た。

 「有栖さんのおかげで、ここまで人が集まって講習が出来るよ。夏期講習を提案してくれてありがとう」

 琴宮先生はあの目が無くなる笑顔でにっこりと笑った。ううっ、まぶしい……!

 一対一じゃないのは残念すぎるけど、こんなにまぶしい笑顔を見れたなら、夏期講習をお願いして良かったかも!

 「えへへ……」
 
 わたしはへにゃへにゃと笑った。

 「単純なやつ……」

 後ろの席の佐紀が呟いた。聞こえてるからね。

 わたしが席につくと、授業が始まった。

 今日は数学の授業。1学期にやった内容のおさらいから始めて、2学期の内容も少しやるみたい。

 琴宮先生はどんな教科のことを聞いても答えてくれるから、きっと毎週違う教科をやるんだろうな。琴宮先生、すごいなあ。

 「それでは今日は図形の面積を求めましょう」

 琴宮先生はチョークで黒板に図形を描いていく。
 琴宮先生の字って、前から思ってたけど、すごく丁寧できれい。

 あと、いつも職員室で座ってる琴宮先生ばかり見ていたから気が付かなかったけど、琴宮先生って背が高くて、シュッとしてて、足が長い。つまりすごくスタイルが良いってこと。
 こんなこと観察してたら、変態かな……。

 って、そんなこと考えてる場合じゃない。ノートに図形を描きうつさないと。

 そんなわけで、1時間ほどかけて、1学期にやった簡単な図形から、応用まで、今日は数学の図形をみっちり教わった。
 やる気のある人を集めてるだけあって、結構ハイレベルな内容だったかも。

 授業が終わって琴宮先生に挨拶をしに行こうとすると、琴宮先生の方からわたしに話しかけてきた。

 「今日の授業、どうだった? こんな感じで、大丈夫かな」
 「わかりやすかったです! ありがとうございました!」

 琴宮先生が大人数の中でわたしに話しかけてくれただけで、わたしは嬉しくなる。

 「実は、授業をやるのは初めてだったんだ。だから結構緊張していてさ。有栖さんのおかげで、良い経験させてもらったよ」
 「そんな……!」

 わたしは夏休みに琴宮先生に会う口実が欲しかっただけなんです! ……とは言えないけど。

 琴宮先生にこんなに感謝してもらえるなんて、今日はなんて良い日なんだろう!
 最初は一対一じゃなくてあんなにがっかりしてたのに、わたしってば単純。

 「そういえば、部活はどう? コンクールの練習、頑張ってる?」
 「はい! 先生からのアドバイス、いつも実践してます!」
 「ありがとう。その調子なら、金賞も獲れそうだね。応援してるよ」
 「がんばります!」
 
 「じゃあ、また次の水曜日」

 琴宮先生はそう言って、教室を出て行った。

 「琴宮先生にも応援されちゃった。絶対金賞獲らないとね」
 「そうだね」

 わたしと佐紀は頷きあった。