「え……? なんで、私の名前……」
「ああ、これだとわかんないのかな?」
彼は自分の髪に触れながら、ぼそりと呟く。
次の瞬間、赤いメッチュは染みるように消え、髪全体が灰色に近いくすんだ緑へと変わっていった。
目の色も赤から、深い緑に戻っていく。
普通の──少なくとも“普通そうに見える”少年の姿。
でも、沙音にはもうわかっていた。
「……あなたは」
──影森、くん
「ようやくわかった? 隣の席の影森だよ」
そう言った影森は、まるで朝の挨拶でもするように、あっけらかんと清々しい笑みを浮かべていた。
「おとなしくしていれば、痛い思いはしないから」
それだけ言い放つと、彼はくるりと背を向け、革靴の音を響かせながら部屋の奥へと歩いて行く。
やがてソファのような椅子にドサっと腰を下ろし、こちらをじっと見つめる位置に収まった。
その視線に背筋がゾクリとする。
冷や汗は頬を伝い落ちる。
誰か、助けて──
沙音の瞳に、恐怖と混乱が浮かぶ。
その中に、かすかに宿った光──あきらめないという意思も、確かにあった。
神牙さんが、必ず助けに来てくれる──そんな気がした。
